「地方へ“移住婚”の女性に60万円」が大炎上。ひどすぎる支援策の背景にある、日本人の“前近代的”価値観
東京に住む独身女性が、結婚のため地方移住する場合、自治体を通じて60万円の支援金を出すという施策が大炎上しました。批判が殺到したことで政府は撤回を余儀なくされましたが、あまりにもひどい支援策が次々と出てくることに絶望感を抱いた人も多かったことでしょう。 政府はもちろんのこと、一部の国民もこの問題はテクニカルなものであると、軽く考えている節がありますがそうではありません。こうした問題が立て続けに発生する背景には、日本社会が完全に近代化できていないという深刻な問題があり、この現実を受け入れるところから始めないと事態は進展しないかもしれません。 今回、炎上した支援策の内容を簡単に言ってしまうと、東京など都会に住む女性にお金を出して、地方で結婚してもらおうというものです。過疎に悩む地方から見ると、都会に多くの女性が転出する一方、地元は未婚男性ばかりとなっており、このままでは地域が消滅してしまうので、女性の地方移住を促進してほしいという考え方です。この考え方の最大の特徴は「過疎化の原因は主に女性にある」という点です。 これまでも「地域に女性が残らず、都市部に出ていくことで過疎化が進む」といった発言が繰り返されており、女性の側に原因を求める人が後を絶ちません。一連の状況に対して、地方の現実を考え、もっと総合的な政策を立案する必要がある、あるいは時代に合わせて感覚をアップデートしなければならないといった指摘もよく行われます。 確かにこうした指摘や批判はもっともなのですが、筆者は一連の問題はもっと根深く、表面的な施策だけでは到底解決できないと考えています。その根本的な原因とは、日本社会に根強く残る前近代的価値観です。 日本は明治以降、封建制度を撤廃し、表面的には近代国家になったとされています。確かに経済的には豊かになりましたが、日本人のメンタリティーは依然として江戸時代のままであり、前近代的価値観から脱却できていないという批判は以前から存在してきました(ここでは詳しく解説しませんが、例えば夏目漱石の作品は、精神的に近代化できない日本人が一貫したテーマとなっています)。 前近代的思考というのは非常にやっかいで、普段はあまり目にしないのですが、イザという時になると、今回のような形で私たちの目の前に現れてくるのです。
加谷 珪一