J1町田で黒田監督が旋風を巻き起こし「めちゃくちゃ嬉しい」奈良クラブユース 内野智章監督が激白
興國サッカー部の知名度を一から全国区まで押し上げた内野智章監督。その興國からはFW古橋亨梧(セルティックFC)を筆頭に数々のプロ選手が輩出され、内野監督の指導方法や育成理論にも注目が集まった。しかし昨年、監督交代が発表されると今年の2月、内野監督は新天地として奈良クラブを選択。高校の先生からJクラブユースでの指導者へと舵を切った。ゼネラルマネージャーとユースコーチ(U-18B担当)兼テクニカルダイレクターに就任すると、9月にはユース監督に昇格した。 【フォトギャラリー】内野智章監督 そんな内野監督には今回、奈良クラブを選んだ経緯や、高体連とJユースの違い。J1町田で旋風を巻き起こしている黒田剛監督についてなど、様々なことを伺った。 ―――黒田剛監督が今、町田で凄く活躍されています。内野さんも高体連からJクラブに来ましたが、内野さんからみると黒田さんはどう見えていますか? 黒田さんとは凄く対照的に見られたりするんですけど、黒田さんはトップオブトップの人じゃないですか?僕なんて優勝も何もしてないのに、なんで比較対象に見られるのかな?って昔から思っていたんです。凄く敵対しているような構図を世の中が作っていたじゃないですか?でも僕は黒田さんのことを、凄いとしか思っていなくて。ようやくひとつのあるべき姿が世に出たな、というか成功例が出来たなと。 オーストリアやドイツで仕事をしているモラス雅輝さん(元浦和コーチ、神戸コーチなど)と食事をさせてもらった時に、モラスさんが「日本の高校の監督はめちゃくちゃ凄い。監督業、コーチング、選手のスカウティングから、進路、さらに生活面までやる。欧州だとスカウトがいて、コーチがいて、監督がいて、進路をみるダイレクターがいて、心理カウンセラーがいて、先生がいる。だから6人分くらいの仕事をやっている」と言われたんです。 もちろん日本の高校にもコーチがいますが、基本は監督が大体のことをやるじゃないですか?だから日本の高校サッカー界で結果を出している監督は凄い人材だと。でも凄い人材だけど、学校の先生だからプロにならない。本来はちゃんと勝負の世界で結果を出しているから、オーガナイズとか、人心掌握とか、マネージメントとか、全部で成果を見せているんだから、これ以上の結果はない。でも先生だからプロにならないっていう、この矛盾。これが欧州や南米だったら必ずプロになって、名将になっているであろうと。 階段を登っていてもある一定のところで止まってしまう。というのが日本のサッカー界の一つの停滞しているところで、それをようやく次のステージにいって成功したのが黒田さん。僕からしたらようやく本来あるべき道のりでプロになった。今のJリーグの監督で、何年もユースで結果を出して、そのマネジメント力を買われてトップの監督になった人がいったい何人いるのか。と考えるとやっぱりポッと(トップチームの)監督になっていると思うんですよね。プロのコーチから監督、どこかで監督をやって、0を1にして10にしてというんじゃなくて。 だから高校で結果を出した人がJの監督をやるようになれば日本サッカーがもっと良くなるんじゃないかと。モラスさんの話を聞いてからはずっとそう思っていたので、それを黒田さんが実現してくれて、めちゃくちゃ嬉しいですし、めちゃくちゃ応援もしているし、また第2第3とそういう人が出てきて欲しいなと思っています。 やっぱり選手って絶対にユースで結果を出して、大学で結果を出してプロになるじゃないですか?でも監督は違う。凄かった選手が監督になるのも別に悪くない。悪くはないけど、でも指導者として凄く結果をだしてプロになるっていうルートもあっていいと思う。この2つのルートがあった方が日本のサッカーが良くなると思っています。 日本は凄かった選手がプロの監督になる。スペインも結構そうらしくて。でもドイツとかポルトガルとかは、例えばナーゲルスマンさんやクロップさんもそう。モウリーニョだって選手としては全然で。だから欧州でも二つの道があるんで、日本も二つのルートがあった方がいいと思うんですよね。 だから町田って(選手として大成しなかった)その二人が監督とコーチをやっている。(内野さんが高校時代に初芝橋本でチームメイトだった)金明輝もプロにはなったけど、全然プロでは活躍できなかったし。彼の最初は(サガン)鳥栖のスクールコーチだったんです。そこからジュニアユースのコーチに上がって、ジュニアユースの監督になって、鳥栖のジュニアユースをもの凄く強くした。 でも当時は土のグラウンドだし、トップトップの選手は東福岡、大津、アビスパに全部取られていて。それでも何とかしたいという時に「明輝さんがユースの監督になるならユースに上がりたい」という選手が出てきて、それで明輝がユースの監督になった。それで鳥栖ユースを日本一のユースチームにした。さらに彼は(暫定監督として)J2降格から2度チームを救って、満を持してトップの監督になった。でも始まりはスクールコーチなんですよ。こうやって這い上がっていったルートなんです。 だから心の底から凄いなと思います。黒田さんだけじゃなく、金明輝と二人が。黒田さんも青森山田を一からあそこまで持っていった。僕も同じような経験があるので、その大変さは知っている。だからそういう二人が組んで今Jリーグで旋風を巻き起こしているので、純粋に死ぬほどうれしいです。熱く語りましたけど、これマジですからね。本当に嬉しいです。 ―――世間は正反対と言っていたかもしれないですが、僕はお二人の考え方に似ているところもあると感じていたので、そう仰るかなとは思っていました。 これは本当に声を大にして言いたいですね。レジェンドが監督をするのも大賛成だけど、本当に指導者として結果を出してプロになるっていう道も絶対に大事だと。だから日本サッカー界にとって、あの二人が結果を出すというのは、凄く明るい出来事だと思いますよ。 ―――内野さんも高校の先生からクラブユースの監督になって、ここで内野さんが成功することで、いま高校で監督をやっている方の選択肢を広げることにもなると思いますが。 僕の場合は黒田さんと違って、道を切り開くって意識は全くなくて。でも、結果的にサッカー界が盛り上がらないと、プロになった選手が幸せになれないし。サッカー界を盛り上げるには、コンテンツとしての魅力がないとダメだと思うし。だからYouTubeとか、いろんな角度からサッカー界を盛り上げるってこともやりたい。 もう一つはみんながみんなJリーグの監督をやらなくても、選手としてそこまでじゃなくても指導者として成功できるとか、指導者としてプロになれる。指導者も夢を持てないと、夢を持っていない大人に教えられる子供も夢を持てないと思っているので、だからこそ指導者にも夢があって、そこで成り上がっていったら、沢山給料がもらえたり、いろんな得るもがあるってならないと、なりたい職業にならないので。人がやりたいと思う仕事にならないと、その世界は盛り上がらないので、そういう意味では色んな可能性を指導者も持てるようにしたいなと。