アーロン・パークスが明かす、ジャズの境界線を越えていくバンド「Little Big」の全容
何も隠さず、真実を語ろうと思った
―最後に、あなた個人の話を聞かせてください。2022年にご自身の双極性障害についてのエッセイを執筆されてますよね。その件なんですが。 アーロン:うん、OK。 ―公表することはすごく勇気が必要だったと思います。でも、あれを読んで、勇気づけられた人もいたと思います。あなたはなぜ、自分のことをあそこまでまっすぐに書いたのでしょうか? アーロン:「書くことで自分のことをより理解できるようになる」ってことがあるよね? だから書き始めたんだ。それを公表したのは、2週間のツアーをキャンセルしてしまい、迷惑をかけてしまったプロモーターやファンに説明する責任があると感じたのがきっかけだった。書いていくうちに、何も隠さず、真実を語ろうという気になった。その方が潔いし、嘘がないと思った。多くの人がこの手のことを話してくれればいいのに、と思うよ。人間なら誰しも、恥ずかしくて他人に話せないことがあるものだし、似たような悩みや葛藤を抱えているものだ。僕が自分の経験を共有し、それはこういう病気なんだとはっきりさせることで「これが僕の現実なんだ」って言えるから。決してそれは恐れたり恥じたりするものではなく、それに合わせて自分が調整すればいいってことを伝えたかった。曖昧だったものをはっきりさせることで、もう怖くなくなるし、そこから逃げることもなくなるんだ。 ―病気を抱えながらもあなたは今も世界中を飛び回っています。その間に曲を書き、作品を録音して、またツアーに出る。私たち日本人はそのおかげでライブを観ることができるわけです。でも、あなたも言及していたように、世界中をツアーすることによるアーティストの身体と心への負担は計り知れませんよね。アーティストが健康でサステナブルに活動できるために、音楽業界や我々リスナーができることはどんなことだと思いますか? アーロン:いい質問だけど、僕にその答えがあるかな……。ひとつ言えるのはもっとライブ・パフォーマンスへのサポートがあればいいと思う。かつてそうだったように、アーティストが1つのクラブや都市に、たとえば1週間くらい留まって、レジデンス公演を行えたならと思う。毎晩、観客は変わるわけだから、経済的にそれが持続可能なら、アーティストの健康のためにはずっといいよね。訪れた先で、その街や地元の人や文化と触れ合って時間を過ごせれば、アーティストのためにもなる。 ただホテルを渡り歩き、毎日公演をこなすだけの過酷なペースを続けていると、どこにいても、どこにもいないように感じてしまう。最低でも、もう少しオフの日を増やせれば、より健康的で充実したツアーになるわけだけど、経済的にはギリギリでやっていることも多いから、なかなか難しいとは思う。どれくらいキャリアを積んでいるかにもよるだろう。僕にできるのは、十分な休息が取れる日程になっているか気を配ることくらいだ。連日ステージがあるとしたら、それなりに理にかなっているか、世界中を無駄に行ったり来たりしなくて済むようにする。1回だけならいいけれど、連日早朝4時出発のフライト、というのはさすがに辛い。これは精神的な問題を抱える者にとってだけでなく、全ての人にとって重要なことだ。人間らしくあるために、睡眠は不可欠だからね。 --- アーロン・パークス 『Little Big Ⅲ』 発売中 日本盤;SHM-CD、ボーナス・トラック収録
Mitsutaka Nagira