大学での教員養成を現場につなぐ びわこ成蹊スポーツ大・松本圭将講師 スポーツが未来を変える
びわこ成蹊スポーツ大学には、多くの教員志望の学生が在籍しています。現役合格が難しいとされている教員採用試験において、2023年度卒業生からは過去最多の15人の現役合格者を輩出するなど、スポーツを支える教員の養成を一層進めているところです。 このように本学の合格者が増えている要因として、教職を志す熱心な学生が努力を重ねていることや、そうした学生への本学の教育やサポートの充実を一教員として挙げたいと思いますが、教員採用試験の倍率が低下しているという社会的要因も考えられます。 その大きな原因として、定年退職者の増加による採用数の増加と、正規教員でない講師として欠員を補っていた教員採用試験の「浪人生」の減少が挙げられ、これらによる受験者数の減少が指摘されています。そして、教員不足にもつながっています。 こうした状況への対応策の一つとして、文部科学省は教員採用試験の早期実施を打ち出しました。これは、民間企業の内定時期の早期化に対抗し、教職課程学生の他職種への流出を防ごうとするものです。各都道府県などにおける公立学校の教員採用試験は、長らく卒業年度の7、8月ごろに行われ、9、10月ごろに内定を出していましたが、文部科学省は24年度実施試験では6月、25年度では5月を1次試験の基準日と定めました。 採用試験の早期実施は大学の教員養成にも大きな影響を与えます。早期化された試験日程は、従来多くの大学で学生が教育実習を行う時期と重なります。カリキュラム編成の再検討も必要になるでしょう。採用日程の早期化は、大学での学びの前倒しや縮小という問題を生みかねません。 近年の教員に関する政策的な議論では、大学での学びを軽視するような実践重視の考えも見られます。しかし、入職前の大学での教員養成でこそ学んでおくべきことがあるのではないかと考えています。 例えば、私が担当している教育行政や制度に関する講義では、教育制度の背景にある理念や教育政策動向とそれが形作られる仕組みについて扱っています。それは、ともするとのめり込んでしまう日々の教育活動を、自分の教育活動が公教育の中でどのような意味を持つのか俯瞰(ふかん)して見るための視点の獲得につながるのではないでしょうか。「深く真理を探究(教育基本法第7条)」する大学において教員養成をすることの意味は、このように実践を見る多様な視点を得ることだと理解しています。 教育を取り巻く状況が大きく変わる現代において、教員養成に関わる研究者として大学での学びと現場をより適切につないでいけるよう、研究と実践を進めていきたいと考えています。
松本圭将(まつもと・よしまさ) 滋賀県彦根市出身。京都大学大学院教育学研究科教育学環専攻博士後期課程在学中、修士(教育学)。びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部学校スポーツコース講師。専門は教育行政学、高等教育学。著書に『検証 日本の教育改革』(共著、学事出版)など。