大型船と「世界最大魚類」がなんと衝突危機? そのリスクが年々高まっていた! いったいなぜか
地球監視衛星が暴いた密漁の実態
絶滅危惧種であるジンベエザメの減少原因のひとつが「密漁」だが、実は私たちが知らないうちに、世界の海では違法漁業が広がっていることが、地球監視衛星のデータで示されている。 世界の産業漁船の72~76%が公的に追跡されておらず、これらの船は海洋保護区での違法漁業や、強制労働、人権侵害に関与している可能性が高いという。 海上での活動の透明性を高め、海洋ガバナンスを推進することを目的に活動している非政府組織(NGO)「Global Fishing Watch(GFW)」が主導し、2024年1月に「Nature」に掲載された研究によれば、主にアフリカと南アジアで操業する世界の産業漁船の 「約75%」 が公的な追跡を受けていないことがわかった。また、輸送船やエネルギー開発船の活動の4分の1以上も追跡システムから漏れていることも明らかにされた。 研究チームは、2017年から2021年までの間に収集された200万GBの地球監視衛星データをAIで分析し、世界の産業活動の75%が集中している6大陸の沿岸水域に関する初の世界海洋地図を作製した。この地図の分析から、潜在的な違法行為が行われている“ホットスポット”も浮き彫りになった。
危機迫る海洋資源
世界で最も監視が行き届いている生物学的に重要な保護海域のひとつ、グレートバリアリーフでは、保護区内で密漁が疑われる漁船が週平均で20隻以上確認されている。ガラパゴス諸島でも、週に5隻の漁船が特定されている。 すべての船舶が海上での位置情報を放送する義務があるわけではないが、違法漁業や強制労働に関与する船舶のほとんどは自動船舶識別装置(AIS)を使用していない。実際、公的に追跡されている漁船は全体の25%未満に過ぎず、約75%の漁船は追跡がされていない。 研究によると、海上で発生する違法漁業や人権侵害、労働侵害の大規模な事例は、追跡装置を搭載していないか、使用していない船舶で発生していることが多いという。 GFWによれば、世界で7億4000万人以上が経済活動や食糧供給を海に依存しており、これが海に大きなプレッシャーを与えている。魚類資源の約3分の1は生物学的に持続可能なレベルを超えて漁獲されており、工業化によって重要な海洋生息地の30~50%が失われている。 この研究を受けて、「Coalition for Fisheries Transparency(CFT)」は、海上での活動を透明化するため、世界中の政府に対して船舶追跡システムの義務化とデータの公開を求め、船舶活動の監視強化を提言している。 日本でも密漁は深刻な問題であり、水産庁のデータによると、日本沿岸での密漁摘発数は2021年までの5年間は減少していたが、2022年から再び増加している。水産資源に悪影響を与え、絶滅危惧種にも脅威を与える密漁は、厳しく取り締まる必要がある。
仲田しんじ(研究論文ウォッチャー)