ART-SCHOOLのサポートに抜擢 ニトロデイ、Cruyff やぎひろみが模索する“ギタリスト”としての生き方
「自由な方がかっこいい」ジャンルにとらわれないことを意識したCruyffの最新曲
■「自由な方がかっこいい」ジャンルにとらわれないことを意識したCruyffの最新曲 ーー4月にリリースされた最新曲の「Halcyon」にはDJのarowさんが参加していて、かなりエクスペリメンタルな、音響的な側面が強まっていたわけですけど、そういった方向性に向かったのは何かきっかけがあったのでしょうか? やぎ:アルバム(2023年リリースの『lovefullstudentnerdthings』)を出してからライブにたくさん呼ばれるようになって、よくシューゲイザーと言われるようになったんですよね。でも自分たちとしてはそこに括られるのはちょっと違うというか、たぶん反発もあると思いますし、普通にそういうのは飽きたっていうのもある。もともとドラムの吉田やベースの加藤はそんなにオルタナティブロックは聴いてなくて、R&Bやソウルやジャズの方が好き、みたいな感じもあったし、「よりジャンルにとらわれないものをやりたいね」っていう意識だったのかな。 ーーそういう中でarowさんに出会ったと。 やぎ:そうですね。クラブに行くようになって、ライブハウスがつまらなく感じるようになったというか、クラブの方が演者もお客さんも好きにできる感じがして、こっちの方が自分には合ってるなと思いました。そういう発見がCruyffを始めてから結構あって、そういう場所で鳴ってる音楽はやっぱりジャンルレスで、ロックもあるしヒップホップもあるし、という環境がすごく面白いんじゃないかなって。それにだんだん気づき始めたというか、普通だと思ってたことが意外と普通じゃなくて、もっと自由でいいんだと思うようになりました。だから自ずと音楽もジャンルとか関係なく、自由な方がかっこいいなって。 ーーそういう中でフィッシュマンズの話をよくしてるのは納得というか、「Halcyon」に関して別のインタビューではマイルス・デイヴィスやエイドリアン・シャーウッドがキーワードとして挙がっていて(※2)、それもわかるなと思いつつ、arowさんの参加に関して、僕が連想したのはフィッシュマンズとZAKさんとの関係性で。 やぎ:そうですよね。arowさんをバンドに誘おうと決まって、「なんて誘えばいいかな?」というような話をしたときに、「ZAKみたいな感じがいいよね」ってなりました。裏方なのかメンバーなのか、でも不可欠な人がいる、みたいな。逆にそういうバンドが他に全然いないのも不思議だなと思ったり。今はバンドらしいバンドが流行ってるというか、それこそY2Kのギターロックみたいなノリのことをやっているバンドが多くて、それはそれで別にいいんですけど、私はそもそもそんなに元気じゃないしなって(笑)。 ーー「Halcyon」はDAWベースで制作されているそうですが、ギターのサウンドメイクやフレージングに関してはどんなチャレンジがありましたか? やぎ:イメージとしてあったのは、ジャーマンロック的なギターだったんですけど、肉体的なギターとそうじゃないギターの使い分けがめっちゃ難しくて。最終的には曲の展開的にも肉体的なものにシフトしていく感じになったんですけど、実際の録音時は「お前のギターを弾いてくれ」みたいに部屋で言われて、「何かやってみます」と足をバタバタさせながら録りました(笑)。 ーー即興に近い感じ? やぎ:めっちゃ即興でした。そうしたら、ベースの加藤に「Funkadelicのギターみたいでいい」って言われて、「よかった~」って。 ■新たな音楽を吸収して目指す未来「変な人になりたいです(笑)」 ーーフリージャズやインプロも結構聴いてたりしますか? やぎ:わりと最近聴くようになりました。 ーー今年、中尾さんと柏倉隆史さんと中村弘二さんと一緒に即興演奏の企画(8月に調布Crossで開催された『前意識について/Re:Preconscious』)に出られてましたよね。 やぎ:今年はインプロが多くて、もともと興味はあったんですけど……でも私のやっているインプロはすごく独特だったことに気づいて(笑)。前に「インプロしました」みたいな動画をあげたら、友人のギタリストから「ドローンみたいなことをやっていていいね」ってメッセージが来て、でも私はドローンをやってるつもりはなくて(笑)。そこからもっと即興とかフリージャズをいろいろ聴いてみたりして、「なんで今まで聴いてこなかったんだ? 私がやりたいのはこれだったじゃん」となってます。 ーーここに来て新たな音楽に対する興味が広がって、今はまたどんどん開拓していってる感じなんですね。それがきっとまたCruyffにも還元されていくだろうし。 やぎ:自分は何十年も同じギターロックを続けることはできないと思うから、逆にずっとバンドをやり続けてる人はすごいなと思います。ひとつのことをやり続ける美学もめちゃくちゃあると思うんです。でも自分は飽き性なのか、影響されやすいからなのかわからないですけど、それはできないなと思うから、それこそART-SCHOOLはすごいなって。最近思うのは、自分は0から1を作ることは苦手なタイプで、自分の好きなものをサンプリングする感じで作るのが好きなんだなって。 ーーそこにはジャンルも関係ないし、なんなら楽器も関係ないかもしれない。 やぎ:そうですね。だから逆に今サポートでART-SCHOOLをやってることによって、帳尻が合っているなと思うんですよ。 ーーART-SCHOOLによってギタリストとしてのやぎさんが保たれていると。極端にいえば、もしかしたらART-SCHOOLがなかったら、すでにギターを持っていなかったりするのかもしれない。 やぎ:私をギターに繋ぎとめてくれているのかもしれない。今の私みたいにオーバーグラウンドとアンダーグラウンドをずっと行き来してる人は周りにはいなくて、でも全部嘘じゃないというか、そういう人がいてもいいんじゃないかなとは思っていて。最近結構言われるんですよ。「よくそんなにいろいろできるね。俺は一個のことしかできない」とか、そういう友人が多いんです。私からしたら一個を真面目にずっとやってる人が一番かっこいいなと思うけど、私は一個しかやらないのは無理な気がしていて、いろいろとやれてることが嬉しいです。 ーーニトロデイは休止中ですけど、Cruyff以外にLarks Louもやってますもんね。 やぎ:Larks Louは腐れ縁というか、メンバーを集めて曲を作ってた人がライブ前にいなくなっちゃって、残されたメンバーで「やるか」っていう。歌もので、ポップな方のサイケバンドだと思うんですけど、私はここにいることが大事というか、もともとの曲が結構ポップなので、その中でどれだけヤバいことができるかみたいな、そういうイメージはあります。 ーーART-SCHOOLでやぎさんのことを知って、CruyffやLarks Louを聴いてみました、みたいな人はきっといるだろうし、その逆だってあるだろうし。いい橋渡しにもなっている気がします。 やぎ:そうですね……変な人になりたいです(笑)。 ――「この人の立ち位置が理想」みたいなミュージシャンっていますか? やぎ:変な人かはわからないですけど(笑)、dipのヤマジ(カズヒデ)さんはすごいなと思います。歌ったり、曲も作ったりするけど、でもギタリストじゃないですか。その感じがすごく安心するというか、「(この立ち位置で)いてくれてありがとうございます」みたいな。 ーーそこでヤマジさんの名前が出てくるということは、やっぱりやぎさんはART-SCHOOLにいるべくしている人な気がします(笑)。 やぎ:別に男女で分けるわけじゃないですけど、私みたいな女性がいてもいいんじゃないかなって。いろんなプロジェクトとかバンドをやることに関しては、ちょっと悩む時期もあったんですけど、それこそ山本さんやヤマジさんみたいな人がいると、すごく安心しますね。 ーー「何かひとつに絞らないといけないんじゃないか」みたいに思う時期もあった? やぎ:「見え方とかを気にしないといけないのかな?」と思うこともあったけど、そうじゃないなって。私は「いい音楽を残し続ける」ということを一番したいんですけど、それ以外に「こういう女性もいるよ」という例になれたらいいなと思うし、インディーズとかメジャーみたいな分け方もどうでもいいと思う。そういう意味でのカウンターでありながら、その上で、いい音楽ができればなと思いますね。 ※1:https://musit.net/interview/cruyff-lovefullstudentnerdthing-1 ※2:https://musit.net/interview/cruyff-halcyon-2
金子厚武