虎に翼、地面師たち…話題作に出演 「エンタ芸人」後、実力派も “お笑い”経て活躍する意外な俳優たち
ピンネタを披露していた遅咲き俳優
意図せず、ピン芸人のような活動をしていた俳優もいる。それが、前述の『虎に翼』や『新宿野戦病院』(フジテレビ系)などのヒット作に立て続けに出演する岡部たかしだ。 岡部は工業高校の土木科出身。「友だちが行くから」という安易な理由で進学を決めた。卒業後、地元和歌山の建築会社に就職し現場監督を担当したが、そもそも興味があって選んだ道ではないため面白さを見出せず約1年で会社を辞めてしまう。 その後、地元でトラックの運転手や喫茶店といった仕事を転々とする中で、漠然と「芸能人になってみよう」と考え始める。当時の交際相手(元妻)に背中を押されたこともあり、24歳で東京に向かう決意を固めた。 大阪で観た柄本明の演技に感銘を受けていた岡部は上京後、アパートを契約するより先に柄本が主宰する劇団東京乾電池の研究生オーディションへと足を運んだ。一張羅の白いスーツ姿で尾崎豊の楽曲「I LOVE YOU」を熱唱。その場に居合わせた先輩から「本当にヤバいやつがきた」と思われたものの、オーディションに合格。1年後には正式に所属が決まった。研究所の同期には、阿佐ヶ谷姉妹の2人がいる。 3年が経ち、東京乾電池を退団。環境を変えようと、お笑い芸人・俳優で脚本・演出も手掛ける九十九一(つくもはじめ)のもとに足を運ぶようになる。そこで、もともと好きだったジャッキー・チェンを模して“ニセ広東語”をしゃべって見せたところ、九十九から「それネタにしたらええんちゃうか」とアドバイスをもらい、老舗のお笑いライブ「いしだちゃん祭り」などでピンネタを披露するようになった。 一方で、俳優・村松利史の演劇ユニット「午後の男優室」や劇作家・山内ケンジがプロデュースする「城山羊の会」などに出演しながら、テレビドラマにも少しずつ顔を出し始める。とはいえ、アルバイト生活が続き鬱屈した思いは募っていく。やがて30代中盤になり、“売れること”をあきらめてから肩の力が抜け、不思議と演技が評価されるようになったという。 ブレークのきっかけとも言える2022年放送のドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』(カンテレ/フジテレビ系)のプロデューサー・佐野亜裕美は、まさに「城山羊の会」の公演を観て岡部の演技力と声に魅了されキャスティングしたという。岡部は50歳にして、ついに大きなチャンスを掴んだ。 今年7月に放送の『なりゆき街道旅』(フジテレビ系)の中で、岡部はお笑いライブでの経験についてこう振り返っている。 「やっぱどっかお芝居につながってまして。『お笑いをやってる』っていうよりも、なんかこう自分の身体とか得意なこと使ってノリ作るみたいな。そういうのがお芝居になかなかできなかったんで。それはちょと訓練やったんかもなと思ったりしますね」 そのほか、元ラーメンズの片桐仁、ドランクドラゴンの塚地武雅、マキタスポーツなどお笑い芸人としてスタートし役者業が増加したケースもあれば、演劇畑のコントユニット「親族代表」の嶋村太一、竹井亮介、野間口徹のように最初からジャンルの垣根を越えて活動し人気を博す俳優もいる。 最近では、コント公演と演劇公演を並行して開催する男女8人組「ダウ90000」のような活動形態もあり、一部の層からの支持で終わらず、早い段階でテレビやラジオなど主要メディアの出演につながっているのが興味深い。 「YouTuber」「ライバー」という存在が一般に認知されたように、新たなメディアの台頭や演者の自己プロデュースによって見られ方はいかようにも変化する。毎年お笑い養成所出身の芸人が輩出される一方で、「あの俳優、お笑い芸人だったの?」という意外性は、もしかすると徐々になくなっていくかもしれない。