門前さん（左端）から指導を受けながらレシーブの練習に取り組む井辻さん（手前中央）たち男子バレーボール部員

　1人の男子高校生が教員や同級生たちを動かし、体育館がない通信制の学校にバレーボール部が誕生した。バレーを機に授業に出席できるようになった部員もいる。結成間もないチームは広島県代表の座を射止め、今月下旬に開幕する全国大会に挑む。 【写真】練習前に円陣を組んで気合いを入れる部員たちなど 　4月に男子バレーボール部が誕生したのは並木学院福山高（福山市）。主将で3年の井辻百春さん（17）=岡山県矢掛町=が、転校してきたのがきっかけだった。 　井辻さんは中学1年からバレーに打ち込み、岡山県内の強豪高校にスポーツ推薦で進学。バレー漬けの日々を送った。だが学業と両立できないもどかしさが募り、下宿先から通う学校生活にもなかなか慣れなかった。 　好きだったはずのバレーの練習から次第に足が遠のいた。高校2年の途中からは学校にも行けなくなった。時間をかけて自分の気持ちを整理し、「環境を変えて新しくスタートを切ろう」と決意。昨年11月に並木学院福山高へ転校した。 　同高に慣れてきた今年1月から、女子生徒が主体だったバレーボール同好会に参加するようになった。「当初はボールに触れたらいいなくらいの気持ちだった」。練習を重ねるうちに感覚はよみがえり、バレーへの意欲も戻ってきた。 　元来、明るく活発な性格。同級生たちに呼びかけ、同好会の参加者は徐々に増えた。レシーブの足の運び方などを積極的にアドバイスし、メンバーはみるみる上達。「大会に出たい」との思いも芽生え、顧問で体育教諭の門前義久さん（54）に伝えた。 　バレーの選手、指導者として豊富な経験を持つ門前さんは、男子の人数がそろい、休むことなく真面目に練習する姿を見て決断。部への昇格を学校に働きかけた。 　現在の部員は2、3年の計7人。井辻さんを除いてバレー経験はほぼないが、別の高校で不登校を経験した部員は「バレーがあるので学校に来るのが楽しみ」と話す。週2回の練習に合わせ、門前さんが市内各地の体育館を借りて活動する。 　6月の県高校定時制通信制総体で三原高（三原市）を逆転で破り、30日に神奈川県平塚市で開幕する全国大会の出場権を獲得した。チームは8強入りを目標に掲げる。 　7人中4人が身長180センチを超え、井辻さんは「みんな技術の吸収が早い。伸びしろしかない」と言い切る。「笑顔でボールをつなぐのがバレーの魅力。メンバーそれぞれが長所を発揮し、自然体でプレーしたい」。チームの力を結集し、全国の強豪に立ち向かう。