トヨタ社長「単独では生きていけない」 脱クルマ会社への未来戦略
“ノアの箱舟”に乗るか? 協調と協業の時代
それら全てのサービスを自社でまかなえるという企業は存在しない。だから多くの事業者が参加しなければ実現しないし、それを呼びかけるにはトヨタとパナソニックに強い信頼が求められる。 豊田社長は、2017年にトヨタの役員多数を含む大掛かりな組織変更を行い、以下のように発言している。 「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている。他社ならびに他業界とのアライアンスも進めていくが、その前に、トヨタグループが持てる力を結集することが不可欠である。今回の体制変更には、大変革の時代にトヨタグループとして立ち向かっていくという意志を込めた。また、『適材適所』の観点から、ベテラン、若手を問わず、高い専門性をもった人材を登用した。何が正解かわからない時代。『お客様第一』を念頭に、『現地現物』で、現場に精通をしたリーダーたちが、良いと思うありとあらゆることを、即断・即決・即実行していくことが求められている。次の100年も『愛』をつけて呼んでもらえるモビリティをつくり、すべての人に移動の自由と楽しさを提供するために、トヨタに関わる全員が、心をあわせて、チャレンジを続けていく」 以来2年を経て、トヨタグループの持てる力の結集に目処がついた。今回の合弁会社設立とコネクティッドシティ計画は、他業界とのアライアンスが本格的にスタートしたということだろう。 これから100年というスパンで考えた時、「『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際」なのは自動車業界だけではないのかもしれない。ビジネスシーンでの誰もが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだとすれば、今回のコネクティッドシティ構想は“ノアの箱舟”なのではないかと思う。 洪水が来るのか来ないのか、それはまだ誰にも分からないが、ノアがあらゆる動物をひとつがいずつ箱舟に乗せたのと同様に、今、人々の暮らしに必要な全ての事業者に対し、トヨタは箱舟への招待状を送ろうとしている。しかし同時に豊田社長は言う。「トヨタが選ぶのではない。トヨタと一緒にやりたいと思っていただける様にトヨタ自身が選ばれる会社にならなければならない」。 ---------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある