辞退者相次ぐリオ五輪テニスになぜ錦織は参戦するのか?
その難しい立場にあらためて気付かされる出来事があった。 ウィンブルドンを去るとき、ゴルフの松山英樹がリオ行きを辞退したことに触れ、「松山君がオリンピック出ないっていうのを見て、自分もあんまり出たくないなと思いました……会えるのを楽しみにしていたので」とつぶやいたのだ。 冗談を言ったように報じられたが、とても冗談には聞こえなかった。日本人初のメジャー制覇を狙うという立場でよく比較される二人。会ったことはないという。自分と似た重圧と戦っているはずの日本ゴルフ界のヒーローと、どんな話をしたかったのだろうか。そんな楽しみをリオに抱いていたことに軽く胸打たれ、それを失った虚しさのようなものを確かに感じた。 さまざまな感情や立場を発奮材料に、気持ちを高めようとしてきた錦織は、先日の記者会見の最後にようやく「メダル」という言葉を出した。 「メダルは、もちろん狙っていきたいと思います」 司会役のテニス協会広報が「目標は金メダル?」と促し、錦織は「…はい」と答えた。前日のスポンサーイベントでもほとんど同じやり取りが行なわれたようだ。ネットや新聞等では、「錦織、力強く金メダル宣言」などという見出しが踊ったが、あの会見のどこをどう聞いたらそう受け取れるのだろうか。もちろん嘘だとわかって書いているのだし、ひょっとすると錦織もそう書かれることを望んでいて、ここに書いているようなことは彼の心配した「変なふうに書かれてしまう」ことなのかもしれない。たとえそうでもかまわない。テニスにとってのオリンピックはもう矛盾だらけだ。虚像の中、ただ錦織の正直さだけが救いだと勝手に感じている。 (文責・山口奈緒美/スポーツライター)