辞退者相次ぐリオ五輪テニスになぜ錦織は参戦するのか?
実際のところ、今は故障している左脇腹のことで頭がいっぱいだろう。最悪の状態のときは「寝返りをしてもくしゃみをしても痛かった」ことを明かし、「それに比べれば今はだいぶ良くなっている。試合には間に合うと思います」と見通しを語ったが、テニスはまだ再開できていないというから、「間に合う」という意味を 「ベストコンディションで臨める」と考えることはかなり楽観的と思われる。 ケガが治れば治ったで、グランドスラムやマスターズシリーズでの初優勝という最大の目標があり、3年連続のツアーファイナルズ出場のためのランキング維持という課題が差し迫っている。今季の獲得ポイントによるランキング、つまりツアーファイナルズ進出の上位8人を決める『Race to London』で錦織は5位。ウィンブルドン前と順位は同じだが、ラオニッチが6位から錦織を抜いて3位に上昇し、ベルディヒは10位から8位に上がってきた。 シーズン後半の彼らの目標は錦織とまさに同じ。マスターズ2大会から全米へ向けて心身ともにコンディションを高めていきたいところへ、「ツアーとは別物」のイベントが挟まっている。ちなみに、錦織のすぐ下の6位は4位から順位を下げてきた22歳のドミニク・ティームだが、彼もまたオリンピックの辞退を早くから表明しており、その週にメキシコで行なわれる〈ワールドツアー250〉の大会に出場する予定だ。カテゴリー名の通り、優勝すれば250ポイントが入る。 こうした状況で、錦織はオリンピックというイベントに対してどうやって気持ちを高めていくべきか模索し、いまだ苦心している様子がうかがえる。過去にオリンピックに出場し、メダルを獲得したテニス選手たちは皆、「ツアーでは得られないすばらしい体験だった」とか「メダルはどんなトロフィーにも代え難い」などと振り返るが、「テニスにとっての最高峰はオリンピックでなくグランドスラム」という共通認識にブレはない。 前回のロンドン大会に出場し、今回はツアー専念を理由に辞退した世界ランク16位のジョン・イズナーも、「すばらしい経験だった」としながらも、「フェデラーがオリンピックの金メダルを夢見ていたとは思わない。やっぱり僕たちの最高の舞台はグランドスラムなんだ」と語っている。 ならば、グランドスラムとは違うイベントを「楽しんでくればいい」と言う人もいる。実際、過去に出場した日本選手の中には「テニスにとってはちょっとお祭りみたいな感じ」「他の競技の選手との交流が楽しみ」などと言って、参加することを純粋に楽しんでいた例も少なくない。しかし錦織は「日本のテニス、スポーツ、そして国のために、メダルを、しかも“いい色”のメダルを獲得してもらわねば」という期待を背負わされており、そうお祭り気分でもいられないだろう。錦織自身、活躍は「お世話になっている協会」への恩返しのように感じていることも確かだ。