山あいの集落に現れる「白塗りの怪人」…日本各地に実在、「笑いが止まらなくなる」奇祭
笑い狂う祭り
この国にはなぜか「笑い狂う祭り」がいろいろある。その一つが、和歌山県日高川町で十月に行われる「笑い祭り」だ。 【写真】家族の深い愛情が輝く『死後写真』を知っていますか 山あいの集落に、突如、むちゃくちゃなメイクをした怪人が現れるのだ。顔をピエロのように白塗りにし、頬には「笑」と赤く書いてある。そして鈴を振りながら、 「永楽じゃ、笑え笑え~! ヒャッハッハッハッハッー!」 と叫びながら、集落の人々を無理やり笑わせていくのだ。樹々のきらめく緑の中を、ピエロの白と赤が揺れうごめく光景は、この世のものとは思えない。
寝坊して落ち込んだ神を励ます
なぜこんな祭りが行われるのか。こんな話が伝わっている。昔々、出雲で神々が集まる会議があった。この祭りが行われる丹生(にう)神社の祭神である丹生都姫命(にうつひめのみこと)もその会議に参加しようとしたのだが、当日の朝に寝坊してしまい、出席できなくなった。 丹生都姫命は落ち込み、神殿に閉じこもってしまった。それを村人たちが心配して、「笑え笑え~!」とはやしたてて慰めた、という故事から始まったという。
ひたすら笑い続ける神職たち
また、名古屋市の有名な熱田神宮では、「オホホ祭り」という名前からして妖しい祭りが五月に行われている。 祭りは夜、境内の灯りを完全に消した暗闇の中で行われる。神職たちがどこからともなく集まってくる。そして、一人の神職が「決して見てはならない」とされるお面を袖の中に隠し、それを扇で叩きながら、「オホ。オホホ……」と笑う。一人の神職が「ピーヒャララ」と短く笛を吹く。すると、周りを取り巻く神職たちが、 「ワッハッハ、ハッハッハ、ハッハッハッハッハッ……!」 とひたすら笑い続けるのだ。
「酔笑人神事」
暗黒の森の中に神職たちの笑い声が響き、シュールなアングラ演劇でも見ているような気分になる。 この不可解な神事は、三種の神器の一つである草薙(くさなぎ)の剣が、六八六年に皇居から熱田神宮に戻って来たとき、神官たちが大喜びしたことに始まるという。正式には「酔笑人(えようど)神事」と呼ばれている。 記事後編は「『笑い』と『神様』の意外な関係…日本各地に『笑い狂う』ふしぎな祭りが存在するワケ」から。
杉岡 幸徳(作家)