フランス芸術界に衝撃を与えた告白 50代の権力者と10代少女は“恋人”? 性的同意は「免罪符」ではない
実際にフランス映画界を揺るがした事件も
『同意/コンセント』が否応なく思い起こさせるのは、2024年にフランス映画界に衝撃を与えたある事件のこと。 女優のジュディット・ゴドレーシュが、自分が未成年だったときに、著名な男性映画監督であるブノワ・ジャコとジャック・ドワイヨンから性的暴行を受けたとし、二人を児童強姦罪で訴えた事件だ。 ゴドレーシュは14歳で25歳年上のブノワ・ジャコの映画に出演、その後6年間にわたり「恋人」として彼と同棲生活を送ったが、その間ずっと年上の彼から性的支配を受けていた。さらに彼女は、15歳のときに出演した『15歳の少女』の撮影時にジャック・ドワイヨンから性的暴行を受けたとも明かした。 ゴドレーシュの勇気ある告発を機に、別の女性たちも次々に二人の男性監督たちからの被害を語り出し、フランスでは#MeTooの「第二波」が到来したと言われている(数年前にも、女優のアデル・エネルをはじめ、幾人もがフランス映画界にはびこるセクハラや性的被害を訴えたが、当時はまだ異論を唱える人が多く、被害者たちの声はかき消された)。
「性的同意」は免罪符にはならない
ヴァネッサ・スプリンゴラとジュディット・ゴドレーシュ、文学界と映画界それぞれの告発は、大きな問いを私たちに投げかける。権威を持つ中年男性が14、5歳の少女と「恋人」であることに、誰も疑問を持たなかったのか? 大人と未成年のセックスが違法行為であったにもかかわらず、当時から現在までなぜ誰もその異常さを指摘しなかったのか? 当時のフランスでは、人々があらゆる抑圧や支配から解放され、自由を求めることが何より正しいとされた風潮があったのかもしれない。未成年者であろうとセックスを求める権利はある。実際、彼女は「同意」していたじゃないか。何も無理やり襲ったわけじゃない。それが、捕食者たちの言い分であり、多くの人々が彼らの関係を容認していた理由なのだろう。 でも、彼女はたった14歳だったのだ。性体験どころか、恋愛経験もほとんどない、幼い子供だったのだ。何十歳も歳上の男と関係を持ち、その関係を世間に晒されたあと、自分がいったいどんな人生を歩むことになるのか、14歳の子供に理解できるはずがないではないか。 大人と子供との間には圧倒的な力の差がある。名のある芸術家(監督、作家)と、俳優や小説のモデルにされる女性との関係には明らかな権威勾配がある。『同意/コンセント』は、もっとも罪深いのは暴力をふるった加害者だが、それを見過ごしてきた周囲の大人たちにも罪があるのだと明言する。そして、「性的同意」とは必ずしも免罪符にはならないのだと教えてくれる。