CCS・CCUSの理想と現実、日本の脱炭素政策に潜む「落とし穴」とは
日本と世界におけるCCUSの課題と現実
日本政府は、CCUS推進に熱心である。 今年5月には、「CCS事業法」を成立させる一方で、本稿でも登場するいくつかの図やグラフの元となる、特設WEBサイトなどを作っている。タイトルは、「日本でも事業化へ動き出した『CCS技術』」や「実証試験を経て、いよいよ実現も間近に」など。 図5は、今年の6月に採択された先進的CCS事業、9案件である。 先ほど見てもらったアンモニア製造でのCCUSは海外だったのにと驚くが、よく見ると、半分のプロジェクトは国内で回収したCO2をマレーシアなどの海外に輸送して貯留するとある。国内での貯留は北海道と東北から新潟、九州の西沖のごく一部でしかない。 実は、CO2が漏れ出ない地層というのが日本ではなかなか見つからない。さらに地震国日本が、難しさに拍車をかける。 では、日本が特殊なのかというとそうではない。CCUSの実装化は、世界的にまだ確定はしていない。 IEAの報告書「Energy Technology Perspectives 2023」によると、「経済的、政治的、技術的な理由から、CCUSの急速な拡大の見通しは非常に不透明である」という。その上で、2050年までにCCUSの実用化が見えない場合、代替技術で対応せざるを得ず、その時には1万TWhを越える莫大(ばくだい)な量のクリーン電源が追加で必要になる。 日本の施策だけに疑問符がつくわけではない。 米国の非政府組織(NGO)であるThe Institute for Energy Economics and Financial Analysis (IEEFA)は、10月下旬のリポートで、イギリス政府が進めているCCUSの計画を、「真のグリーン投資を妨げる高価な目くらまし」だと強く非難した。特に、天然ガス火力発電やブルー水素の製造でのCCUSはコストがまったく合わず、CO2回収率も想定より圧倒的に低いとしている。また、貯留先でのCO2漏えいは安全とかけ離れていると批判し、最大数兆円規模の公的資金の無駄遣いにまで言及している。批判された政策は、日本のCCUS政策と非常によく似ている。 CCUSが脱炭素に必要な技術の1つであることは間違いない。実際に、セメント製造や化学プラントなど代替技術が少なく脱炭素が非常に困難なケースのために、研究や実証などはぜひ進めるべきである。しかし、IEAの報告書にあるように実用化が見通せていないことも事実である。特に、日本などの対応のように火力発電所の延命やブルー水素の製造などに利用するのは、コストの面でもまったく意味がない。実装化が終わった再エネ電力を使えば良いだけだからである。 1.5度の上昇目前という厳しい温暖化の現実を目の前にして、意味のない寄り道をしている時間はもうない。
執筆:日本再生可能エネルギー総合研究所 代表 北村 和也