久保建英のカットインはなぜうまくいく? 偶然ではない身体の動かし方、高確率の突破を可能としているもの【動作分析コラム】
⚫️なぜかマイボールになる選手の身体的特徴
上半身の姿勢を保持しながら、骨盤の動きと連動して前足を引き込んで後ろ足を素早く前に振り戻す、という一連の動きのスムーズさは、いわゆるアジリティの速い選手の特徴になります。 カットインのプレーでは、スパッと綺麗に相手をかわすだけではなく、相手にボールを触られたり、ガチャンと接触しながら結果的にかわしていくシーンも多くあります。 今回取り上げたシーンの場合、ボールが相手選手の脚に引っ掛かって浮き上がっていますが、久保は太ももを上手く使ってコントロールし、そのままドリブルを続けています。 このプレーは決して偶然ではなく、ドリブラーにとって重要な身体的特徴が背景にあります。カットインから加速する際に身体は前傾姿勢になりますが、久保はこの状態でも股関節や膝下の動きの自由度が保たれているため、加速に必要な脚のサイクルを大きく崩さずにイレギュラーしたボールを掻き出して前に持ってくるような動きが可能になるのです。結果的に、マイボールで突破出来る確率が高くなります。
⚫️「骨盤の回旋を止める」蹴り方の利点
エスパニョール戦でのゴールは久保の得意な形のキックで、『ボールインパクトの直前で骨盤の回旋を止める』蹴り方になります。キック動作は通常、蹴り足の前方へのスイングと連動して、蹴り足側の骨盤(左足のキックでは左側)が前に出てくる形で回旋(右回旋)していきますが、久保は上半身の姿勢を保持しながらボールへのインパクトの直前で骨盤の回旋を反対方向(左)にグッと止めることで蹴り足を走らせ、そのまま身体の中心の近くを通して内側に振る(軸足の内股に触れるくらい)ことで、身体の重さが乗ったインパクトの強いキックになります。 フォロースルーは軸足を地面から外し、身体全体の向きを変えながら蹴り足から着地する形になりますが、この蹴り方はインパクトの瞬間には蹴る方向に対して上半身が横に向く形になるため、ゴールキーパーからはボールが飛んでくるコースが読みにくくなりやすい、という利点もあります。 このようなキックで骨盤の回旋を連動させるためには、コア・スタビリティはもちろん、軸足の股関節の動的柔軟性も重要になります。踏み込みでは、脚で強く踏ん張るというより、骨盤から重さを乗せる形で軸足を安定させつつ、必要に応じて股関節の動きをスムーズに出すことが必要です。 久保はプレースタイルの特徴として、ボールの置きどころを身体の真下寄りの左側にする傾向があります。この状態は、相手選手の脚が届きにくい、いわゆる『懐の深さ』を生みます。 ちょうど骨盤の左側を後ろに引いたような姿勢になるため、骨盤の回旋を止める蹴り方のインサイドキックと相性が良いのです。 ボールキープしながら予備動作の少ない形で蹴り出される強いインサイドキックや、サイドで仕掛ける際にキックした左脚を素早く着地させてそのまま急加速する、といった久保特有のプレーの背景には、このような身体的特徴も影響していると考えています。 (文:三浦哲哉)
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