久保建英のカットインはなぜうまくいく? 偶然ではない身体の動かし方、高確率の突破を可能としているもの【動作分析コラム】
遡ること約1ヶ月半前、ラ・リーガ第2節のエスパニョール戦で見せた久保建英の今シーズン初ゴールは、右サイドからの見事なカットインから生まれた。ゴール後のパフォーマンスも話題になったが、あのゴールには久保のある“身体動作”の特徴が活かされている。スムーズなカットインからのシュートを成功させるコツとは?(文:三浦哲哉) 【動画】まばたき厳禁! 久保建英の衝撃ゴールがこれだ!
⚫️『沈むバネ』とは
久保建英のプレーを見ていて、スッと背筋が伸びた良い姿勢をしているな、という印象を持つ人は多いのではないでしょうか。久保が持つ上半身の姿勢の良さはトップレベルの選手の共通点であり、『背骨の綺麗なS字カーブ』と『腹~腰回り、下腹部の筋群の発達』に集約されています。 良い姿勢は、プレー中の視野の広さやフィジカルコンタクトの強さだけではなく、『骨盤と連動した股関節の自由度の高い動き』や『バネ』を生みだす土台となり、サッカー選手の高度なスキルや高強度のパフォーマンスにも繋がってきます。 例えば、カットインのように素早い方向転換からの加速が要求されるプレーでは、進行方向と反対側にあたる外脚(久保が右サイドからカットインするときの右脚)を着地した際に、下半身を曲げてグッと沈み込む動きが出現します。私はこのような動きを『沈むバネ』と表現しており、上半身の重さを骨盤(座骨)に乗せて重心を落とすことで生み出されるバネのような動きを意味しています。 今シーズンのラ・リーガ第2節、エスパニョール戦で見せた久保のゴールがまさにその『沈むバネ』をうまく利用しています。 久保のようなトップレベルの選手は、カットインの局面では下半身の脚力だけに頼るのではなく、上半身を上手く使い、さらには骨盤の動きとの連動によって地面に加える力を大きくすることで、スムーズで鋭い動きを可能にしているのです。
⚫️より強い力を地面に加えるためには?
久保は仕掛ける際の外脚(右)で踏み込むタイミングで、肩甲骨~腕を振りおろす動きに合わせて、『みぞおちの前に胸を乗せる』動きと右側の『脇が下がる』動きが加わります。これらの動きが連動すると、下方向に圧がかかった状態で骨盤を介して右脚に上半身の重さが乗り、脚力にプラスして上半身の動きが連動する形になるため、バネ感のある加速が生み出される、という仕組みです。 これらの動きの際には背骨や肋骨を固めることなく、しなやかに使う必要がありますが、みぞおちと骨盤の間にあたる、腹~腰回り、下腹部のエリアが安定していてグシャっと潰れないことが重要になります。 腹~腰回りを取り囲む体幹の深部筋群によって構成される『コア・ユニット』の機能が中心となり、体幹部分の安定性や骨盤の動きをコントロールする『コア・スタビリティ』の能力は、『沈むバネ』を含めたサッカーのあらゆる動作の土台になるためです。重要になります。 試合後のユニフォーム交換等で上半身が裸になるシーンがメディアによく挙がりますが、久保は一見華奢に見えても、よく見ると身体の内側からパンっと張り出して見えるようなシルエットになっていて、腹~腰回り、下腹部の筋肉はしっかり発達していると言えるのです。 カットインの速さには1歩目にあたる外脚だけではなく2、3歩目の動きも重要になります。沈み込みと同時にボールタッチした左脚は、素早く引き込むことで身体の真下へ着地し、交差する形で右脚が前に振り戻されてきます。この局面はノッキングして減速しやすく、左脚で地面に必要な力が加えられていないと、上半身が後ろに煽られたり、蹴り出しで左膝が伸び切って身体が浮き上がる動きが出て、スムーズな加速が出来なくなります。 対して、久保は身体の向きを変えながら骨盤の動きと連動して左脚で地面にしっかり力が加えられており、上半身はコア・スタビリティが効いた状態で背骨の胸椎下側のカーブ(ちょうど背番号の下あたり)からスッと反らせることで、バランスを崩すことなくスムーズな加速を可能にしているのです。