物流「2024年問題」の解決をめざす「フィジカルインターネット」
橋本 雅隆(明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授) 日本では、ドライバー不足などによる物流危機が数年前から叫ばれてきましたが、今年4月、ドライバーの所定外労働が年間960時間以内に収めるよう義務づけられたことにより、さらなる物流への影響、いわゆる「2024年問題」に直面することとなりました。残業が規制されれば、今までどおり物が届かなくなるのではと懸念されています。なかでも長距離輸送される貨物や、鮮度の劣化が速い生鮮食品などの輸送は深刻です。課題の解決に向け、国をあげて推進されているのが、「フィジカルインターネット」を軸とした新たな物流の仕組みづくりです。
◇工程に多くのムリやムダが発生していたことも、物流危機の大きな要因 日本の貨物自動車運送業は、1990年の法改正で免許制から許可制に規制緩和されたことをきっかけに、トラック運送事業者が約4万社から約6万社まで増え、競争が厳しくなりました。しかし思うように効率化が進まないうえ、貨物獲得の競争が厳しくなったことから運賃も上がらず、相対的に現場のドライバーに低賃金・長時間労働が強いられるようになり、若い人がドライバーになりたがらなくなってしまいました。ただでさえ少子高齢化が進んでいる現状で、ドライバー不足が深刻になっています。 そこで長時間労働を抑制するために2022年、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が改正され、今年4月からドライバーの所定外労働時間が制限されることとなりました。しかしこのままで推移すると、直近でも2019年比で最大14%程度、2030年には34%程度の輸送能力の不足が生じるという推計もあります。 この問題は、物流工程に多くのムリやムダが発生していたことも大きな要因であると考えられます。日本は製配販の分業構造、すなわちメーカー、卸、小売と流通が分かれているため、多段階化のしわ寄せが物流現場に蓄積されてしまっています。また、現在のトラックの平均積載効率は40%未満。つまり約6割は空気を運んでいることになっているのです。さらにトラックが買手(受荷主)の物流センターに着いても、前の車両の荷下ろしや検品に時間がかかり、待機トラックの行列ができて何時間も待たされるという実態もあります。 そもそも日本では買手の事業所まで商品を届けるのが売手の義務とされており、取引価格に物流コストが明示されていないことも少なくありません。結果、物流を効率化するという視点があまり意識されてきませんでした。さらに、運送業は多重の元請け下請け構造があり、現場の実運送の実態が十分把握されていないことも、この問題を増長させてきたと考えられます。 一方、米国のように国土が広く、長距離輸送の負担の大きい社会では、荷主企業は商品調達のための厳しい物流条件を克服するために、物流の効率化を前提とした事業・業務運用を行っています。たとえば世界最大の小売企業であるウォルマートは、商品の出荷販売量に応じた在庫配置と輸送の方式を仕組み化し、それを店舗の棚割りや品出しと整合化しています。つまり、物流を一元管理する仕組みであるロジスティクスが、自社の事業システムの柱にきちんと組み込まれて設計されているのです。 また、米国では1936年に制定された「ロビンソンバットマン法」により、コストが同じであれば同じ対価で取引する義務を負わされるため、ロジスティクスの効率化を事業オペレーションに組み込む必要があったとも考えられます。日本よりもメーカー、小売チェーンともに寡占化が進んでおり、大規模メーカーと大規模小売チェーン間の直接取引が進んでいるので、ロジスティクスを組み込んだ取引ルールが形成されやすいとも言えるでしょう。