東レ社員が「同僚の人生を映画に」と企画、山中有監督で映画賞受賞の快挙
東レのブランドムービー「STRAIGHT PATH(ストレートパス)」
さて、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル &アジア」主催の「BRANDED SHORTS 2024」ナショナル部門で「Branded Shorts of the Year」を受賞した、東レのブランドムービー「STRAIGHT PATH(ストレートパス)」である。全編18分40秒の短編映画が、これほどまでに心を揺さぶるのは、誰かの経験や、悔しい!という感情が、仕事に生かされてゆく様を、「当たり前」に慣れてしまいがちな私たちが共感できる形で伝えてくれているところが大きいように思う。 映画の概要はというと、「世界で安全な水にアクセスできない人は約20億人と言われている。東レのグループ企業であるTORAY MEMBRANE USA, INC.(本社:アメリカ合衆国カリフォルニア州)は、先端技術を駆使した水処理膜の開発と提供を進めている。そのCEOの半生を描いたショートムービー」である。……この情報を読んだだけでは、「それは素晴らしい、さっそく観てみよう!」と心動かされる方は少数ではないかと思われる。ぜひ、山中有監督による誠実で抑制の利いたドキュメンタリー作品の見事な映画力を、多くの方に体験していただければ、と切に願う。 主人公は、ベトナム戦争後に難民となり、アメリカに家族で渡ったトリ少年だ。少年はアメリカの学校を卒業後、東レの社員になる。そして真面目な働きぶりが上司に評価され、「役割を広げる」ことを提案され、ビジネスマンとしての所作を教え込まれる。 新しい部署の任務は、水処理膜の開発と提供だ。これはトリが幼い頃に、ベトナムからマレーシアを経由してアメリカに到着し、「蛇口をひねるだけできれいな水が飲めること」に家族一同で声を上げて驚いた経験からつながる道である。時をさかのぼって、身を隠しながら生活していたベトナム時代には、忍び足で歩いて川まで水を汲みにいくのがトリの役目だった。トリがその時々に置かれた環境の中でまっすぐに歩いてきた道が、今と未来につながっていることが、作品のなかで淡々と語られる。そしてついにトリはCEOに昇進する。 映画の終盤では本人や同僚、上司も登場する。そこで初めて、今まで食い入るように見守っていたこのドラマの主人公が健在で、現在進行形で「まっすぐな道」を歩いているのだと知らされ(そういうブランデッドムービーだとわかっていても)胸が熱くなり、嬉しくて涙が出てきてしまった。