無垢の木に包まれて休みたいと思う:「いのりオーケストラ」が提唱する新しい供養のカタチ
単純で、簡潔で、素朴で、清楚で、無駄がない。シンプルで強い存在感。 伝統的な仏壇が、ぎっしりと荘厳な宗教の世界観で埋め尽くされていたのとは対照的に、囲いがあるだけの、素通しの「空」なる空間。引き算の極み。 どこからともなくそよいできた風が、チリーンと鈴の音を響き渡らせるように通り抜ける仏壇。
伝統的な仏壇の様式を現代の暮らしに合わせ、文字どおりA4サイズにすることで、祈りの空間をドラスティックに変えた。「いのりオーケストラ」の代表作の一つだ。 ずっと触っていたくなる官能の木肌。無垢の木は、丸太から切り出した自然な状態そのままなので、触った時に冷たくない。手の中でずっと握っていると、人肌と同じ温度に上がっていく。 五感を揺さぶり、未知のヴィジョンを開示するプロダクトの数々。それらの魔力に引き寄せられながら、私は、触るように夢中でシャッターを切った。
「森の位牌」
位牌は、故人の戒名や亡くなった日を記して祀(まつ)るもので、故人の霊魂が宿る場所だといわれる。従来、黒塗り以外は考えられなかったが、「森の位牌」の選択肢は圧巻だ。発売当初は200種類以上の天然木を集めたそうで、1本1本丁寧に制作されたそれらは、まるで“森の宝石”である。 果物が大好きだった母にはリンゴの木を選ぶなど、「お母さんらしいね」と感情移入できる位牌は、それこそ世界でたった一つだ。 「森の位牌」は、「選ぶ木の種類によって、故人の個性まで表現できる新たな選択肢を提供しているデザイン」として、2018年度のグッドデザイン賞を受賞した。既存の形にとらわれない「いのりオーケストラ」のシリーズは、通算7回にわたり同賞を獲得し、高い評価を得ている。 その創造性を牽引してきたインブルームスの代表・菊池直人は、「いのりオーケストラには、良いものを長く使う北欧家具の精神が息づいている」と言う。 「ここにあるこの椅子1脚作るのに、職人がそれはそれは、長い時間をかけてます。とびっきりいい素材を使い、本当に丁寧に作るんです。壊れたら修理しながら使う、というスタンス。日本も昔はそうでした。 北欧だと、おじいちゃんが愛用していた椅子が、亡くなった後、取り合いになる。椅子がもう、おじいちゃんそのものになるんですね。 いのりオーケストラのプロダクトも、北欧家具の横に並べても見劣りしないものを目指してきました。シンプルにすればするほど、大事なものは見えてきます」