[懐かし名車] いすゞ ジェミニ(初代):日本メーカーのクルマづくりに一石を投じた国際共同開発車のパイオニア
国産車と欧米車の方向性の違いを知らしめた多国籍車
いすゞ自動車が巨人GMとの全面提携に調印した1971年から、ベレット ジェミニの開発は始まっている。 【画像】[懐かし名車] いすゞ ジェミニ(初代)×17枚 この頃デトロイトのGM本社では、子会社オペルのカデットがモデルチェンジ準備を進めており、ジェミニのボディと足まわりの設計にはこれが活用されることとなった。 飾りが少なくシンプルなボディシルエット、このクラスとしては極めて優れた操縦性と接地性は、居住性を多少犠牲にしてもやむなしというヨーロッパ的な設計思想の賜物。 当時の国産大衆車のゴージャス路線とは一線を画するもので、手頃な価格で欧州車のフィーリングが楽しめると、クルマ好きを中心に人気を拡大していった。 【初期型ベレット ジェミニ1600LTクーペ(1974年)】オペル カデットと同じく逆スラントノーズを特徴とした初期型。エンジンは1.6LでMTのみ、ボディカラーが5色、シート&トリムカラーもブラックとブラウンの2色だけとバリエーションはシンプルだった。 【中期型ジェミニ1800LTセダン(1977年)】ヘッドランプが角型となり、照度をアップ。1.8LシリーズやAT車、内外装を若干豪華にしたミンクスの設定などバリエーションを拡充。1.8L車はバンパーの違いなどで1.6L車より少し全長が長い。 今や日本車の走りは、欧米車と遜色ないレベルに到達している。たとえ大衆小型車でも、欧米市場にも投入されるグローバルモデルなら、誰でも快適にアウトバーンでの全開走行を楽しめるだろう。 足まわりのセッティングも全世界共通仕様がスタンダードになったし、安全性も同じ。その実力は、世界中の市場で認められている。平均速度が高く、衝突安全性の基準も厳しい欧米向けモデルと共通設計になって、日本人は国内ではオーバースペックなほど高い基本性能を備えた国産車に、当たり前に乗れるようになった。 【初期型ジェミニセダン1600の透視図】当時このクラスの国産車はフロントにストラット、リヤに4リンク・コイルのサスペンションの組み合わせが普通だったが、ジェミニはフロントに複雑で高価になるが設計や調整の自由度が高いダブルウィッシュボーン式を採用。サスペンションにかかるコストはセドリックやクラウン、あるいは117クーペ級といえる。なおスペアタイヤはトランク右端に縦置きで格納された。 数値性能だけではなく、乗り味やハンドリングの安心感といった感性領域の味付けも、退屈と言われた昔とは大違い。凝ったメカニズムの高級車はもちろん、シンプルな小型車でも、走りの個性が世界で評価されるまでになったのだ。 【クーペ1800ZZ/R(1983年式)】●全長×全幅×全高:4235 mm×1570mm×1340mm ●ホイールベース:2405mm ●車両重量:970kg ●乗車定員:5名●エンジン(G180型): 直列4気筒DOHC1817cc ●最高出力:130ps/6400rpm●最大トルク:16.5kg・m/5000rpm●最小回転半径:4.6m●燃料タンク容量:52L●トランスミッション:前進5段後進1段●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン式独立懸架/3リンク式コイルスプリング●タイヤ(前/後):175/70HR13 ◎当時価格(東京地区):159万2000円 そうしたレベルに到達できたのは、技術的にも資金的にも日本が世界最先端に躍り出た1990年代からのこと。それ以前の日本車は、欧米車に追いつけ追い越せを合言葉に開発されながら、走らせてみるとその差に落胆したものだった。 ◆センターコンソールに3連メーターが備わるLS(中期型)の運転席まわり。3連メーターは電流計、油圧計とアナログ時計。インパネはグローブボックスのフタやステアリングホイールを含めてソフトパッドで覆われる。 ◆LS(中期型)の2トーンクロスシート。前後に160mm、8段階のスライドが可能。またクーペの助手席はウォークイン機構を採用。レバー操作で背もたれが倒れ、シートが前方にスライドする。 とくに1970年代までは、見よう見まねで形だけはキレイに作れるようになったものの、サスペンションの動きひとつをとってもまだ十分には解析されていない。トラックのようなリーフリジッドの足まわりが、高級車を名乗るクルマにも平然と使われていたのだから、上質な乗り味や個性的なハンドリングなど、語るべくもなかった。 当時の自動車雑誌を読むと、国産の新型車を同クラスの外国車と比べて、まだまだとこき下ろす論調は珍しくなかった。多くの日本人が、行ったこともない欧米へのコンプレックスや憧れを原動力に働いていた時代だ。 いすゞの初代ジェミニはそうした時代に登場して、一躍クルマ好きの注目を浴びた。メッキモールなどの虚飾を極力排した、クリーンでプレーンなスタイリング。ステアリングに軽く手を添えているだけで矢のようにまっすぐ走る高速安定性。それでいて、ステアリングを切り込んだ分だけ正確に反応するハンドリングと、最後までコントロールの容易な限界領域の懐の深さ。クルマとしての基本性能は、まさに日本車離れしていた。 ◆1981年に追加されたZZシリーズのホットバージョン「R」。軽量化のためカーステレオや電動リモコン付ミラーなど快適装備はつかないかわりに、専用のガス封入式ショックアブソーバーやシールドビームヘッドランプなどが採用されていた。 それもそのはず。ジェミニの基本設計は、GM傘下のドイツオペルが開発したカデットと共通。速度無制限のアウトバーンで生まれた、ドイツ車の走りを実現していたのだ。しかし、残念ながら当時の一般的な日本人には、その価値を理解することはできなかった。