「タクシー運転手はアルツハイマー病リスクが低い」は本当か 米研究結果
英医学誌BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に12月17日付で掲載された研究論文によると、タクシー運転手や救急車の運転手は、アルツハイマー病により死亡するリスクが低い可能性があるという。これは米国の死亡証明書を分析して得られた所見で、研究チームはこれらの職業に必要とされるナビゲーション処理が、病気の発症に関与する脳の部位に神経学的変化を引き起こしているのではないかとみている。 しかし、転職を検討する前に、研究チームがこの所見を裏付ける根拠を提示していない点に注意が必要だ。アルツハイマー病のリスクを低減するなら、もっと信頼性の高い方法があると指摘する専門家もいる。 ■アルツハイマー病の職業別死亡率 米国の研究チームは、2020年1月1日~2022年12月31日に発行された死亡証明書の記録を調査し、年齢、人種、性別、教育レベルなどの社会人口統計学的因子を調整した上で、死因と主に従事していた職業について分析。アルツハイマー病が死因とされた人の割合を職業別に評価した。 死亡証明書の死因の欄にアルツハイマー病と記載されていた人は、職業情報が得られた死者約900万人のうち、約3.9%(34万8000人余り)に上った。死亡時の年齢などの社会人口統計学的要因を調整した後のアルツハイマー病の一般死亡率は、1.69%だった。 職業別でみると、調整後の死亡率が最も低かったのは、タクシー運転手(1.03%)と救急車の運転手(0.91%)だった。 いずれの職業についても、人生の中で最も長い期間従事してきたものであるが、他の仕事をしていた時期があった可能性はある。 ■運転とアルツハイマー病の関連性? 研究チームは、タクシー運転手と救急車の運転手が実社会において地図を視覚化する作業を求められる職業である点に着目した。 ハーバード大学ブリガム・アンド・ ウィメンズ病院の外科研修医で論文筆頭著者のビシャル・パテルは、「私たちは脳内に空間認知地図を作成し、自分の置かれた環境の中で位置や方向などを把握するのに用いている。この地図の形成に関わる脳の部位が、アルツハイマー病の発症にも関与している」と説明している。 「タクシーや救急車の運転手など、リアルタイムでの空間処理とナビゲーション処理が必要とされる職業は、他の職業と比較して、アルツハイマー病による死亡率の疾病負荷軽減につながっている可能性があるという仮説を立てた」