【時論】戒厳・弾劾の混乱にも静かな北朝鮮の思惑
戒厳と弾劾事態で大韓民国の政局が揺れる中、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の沈黙が長くなっている。金委員長は今年まで6年連続で新年の演説をせず、昨年末に5日間開催された労働党第8期第11回全員会議の演説でも韓国の政治に触れなかった。 これまでは対南イシューがあるたびに激しく誹謗してきた金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長の口も異常なほど静かだ。北朝鮮宣伝メディアは12・3非常戒厳事態発生から1週間が経過して初めて反応し、その後も報道基調を維持している。 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が戒厳宣言の事由に「北の共産勢力の脅威」を挙げたが、消極的に見えるほど無対応に近い。 こうした反応は過去の北朝鮮の態度とはあまりにも大きな差があり「ニューノーマル」という解釈が出ているほどだ。例えば2004年5月に盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の弾劾が棄却されると、北朝鮮は2日後に「保守勢力に対する人民の審判」と誹謗した。2016年12月の国会の朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾訴追当時は大々的な宣伝攻勢を展開した。翌年3月に憲法裁判所の弾劾認容決定が出ると、わずか2時間後に速報を伝えた。 ところが今回は1カ月近く当局レベルの公式反応が見えない。「普段の北朝鮮らしくない反応」という点で、その思惑を探る必要がある。まず、戒厳・弾劾事態の行方が不確かな状況で安易に介入すれば逆風を呼びかねないという判断で、大きな枠が決まるまで見守るという計算があるようだ。 過去には北朝鮮の動きが韓国国内の政局に否定的な影響を与えるケースが多かった。2000年4月の第16代総選挙を3日後に控えて金大中(キム・デジュン)-金正日(キム・ジョンイル)の南北首脳会談を発表したが、「選挙用」という批判を受けながら当時は保守野党が勝利した。 2012年4月の第19代総選挙と同年12月の第18代大統領選挙を控えて、金正恩の「対南命令1号」は選挙介入指示だった。「逆賊党に決定的な敗北を抱かせるべき」としたが、選挙の結果は外れた。対南介入の失敗事例を経験から知る金正恩は性急に今回の弾劾政局に介入するよりは、事態の推移を観望して慎重に接近し、実利を得ようという意図があると考えられる。 「敵対的な二つの国家論」正当化のため韓国の国内政治状況と距離を置いているという見方も可能だ。2023年12月の二つの国家宣言以降、金正恩は露骨に対南関係の断絶を画策している。「その国(韓国)は意識せず、向き合いたくもない」と話したほどだ。統一戦線部など対南機構10件余りを廃止し、南北をつなぐ鉄道・道路連結地点も爆破した。 韓国政府の対北朝鮮対話提案には無対応で一貫している。昨年8月の鴨緑江(アムノッカン)水害救護物資支援提案にも返答しなかった。尹錫悦大統領が8・15祝辞で提案した「当局間対話協議体」も黙殺した。2022年の「大胆な構想」提案を4日後に金与正が激しく非難したのとは対照的だ。 昨年12月の党全員会議でも北朝鮮は韓国を「反共前哨基地」と一度誹謗しただけで、特にメッセージを出さなかった。韓国を無視する排他的態度を通じて南北の「民族内部特殊関係」を清算し、敵対的な二つの国家関係を固着させていくという戦略がみられる。 北朝鮮が警戒してきた「韓国風」の遮断問題をめぐり得失を比較している可能性もありそうだ。金正恩体制で北朝鮮は2020年12月に「反動思想文化排撃法」、2021年9月に「青年教養保障法」、2023年1月に「平壌(ピョンヤン)文化語保護法」を相次いで制定し、資本主義要素の清算に没頭している。こうした状況で北朝鮮は韓国最高指導者の弾劾局面を適切な水位で公開し、金正恩の「愛民指導者」偶像化の宣伝に利用する可能性もある。 金正恩政権は新年に入って韓国の政局の推移を注視しながら、敵対的な二つの国家という従来の対南戦略方向を整えていくとみられる。弾劾政局を利用してハッカーやサイバー部隊などを動員し、裏に隠れて韓国社会の混乱をあおる隠密な工作は休まずに進めるだろう。韓半島(朝鮮半島)の安保が厳しい時期、早急な国政正常化はもちろん、安保態勢の確立と対北朝鮮情報活動の強化が求められる理由だ。 キム・ホホン/東国大安保北朝鮮学科待遇教授 ◇外部執筆者のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。