引退会見した巨人・阿部慎之助に幻の阪神入り計画?!
ただ当時の掛布氏は、今のようなフロントの立場になく、阪神とは距離があった。掛布氏が現役時代に飲酒運転事件を起こしたとき「欠陥商品」という屈辱的な言葉を投げかけた故・久万俊二郎氏がオーナーだった。それでも、掛布氏は、この阿部からの申し出は、阪神にとって大きな出来事だと思い、旧知の編成スカウトの人間に連絡を取り、阿部サイドの意向を伝えた。当時は、逆指名制度が導入されており事前交渉はOKだった。 掛布氏は、そこから先のことは、「球団内部のことだから」と、自らの手から離したが、結果的に阪神は動かなかった。当時は、野村克也監督。正捕手は、現在の矢野監督で、自らの息子の克則も捕手として在籍していた。 しかも、3年前のドラフト1位で智弁和歌山の中谷仁(現在、智弁和歌山監督)を将来を見越して指名しており、その中谷の育成がチームの至上命令。そこで即戦力の阿部を取ることは、計画を台無しにすることになる。それらの理由が、複雑に入り混じって阪神は、せっかくの申し出のあった阿部の逆指名交渉には乗り出さず、川崎製鉄千葉の右腕、藤田太陽を1位で逆指名した。 当時は、1、2位と2枠を逆指名に使えたが、2位の逆指名は使わずにプリンスホテルの右腕、伊達昌司を2位指名した。ちなみに、この年のドラフトの3位が捕手として獲得した狩野恵輔(前橋工業高)で、4位が赤星憲広(JR東日本)だった。 結局、水面下の阿部争奪戦は、巨人vs西武の一騎打ちとなったが、阿部は阪神のライバルである巨人を選んだ。 阿部は、ルーキーイヤーに長嶋監督への原ヘッドコーチの推薦で開幕スタメンでデビューした。その開幕戦の相手も阪神。阿部は星野伸之からプロ初ヒットを放ち4打点の大暴れだった。2年目にベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得、チームリーダーとしてリーグ優勝を6度経験、2012年には、首位打者、打点王、最高出塁率の“3冠”と、MVP、正力松太郎賞を獲得。2017年に通算2000本安打を打ち、今年6月に通算400本塁打をマークした。 推定年俸は、最盛期の2014年には6億円になったが、「高い給料をもらって結果が出ていないとナインに示しがつかない」と、自ら複数年契約を変動制に変えて、2015年オフの契約更改では約1億8000万円の大減俸をのんだ。 キャリアの晩年は、5000万円単位で年俸は下がり続けて、今季の年俸は1億6000万円だった。そういう男気にあふれる姿もファンやチームメイトの信頼を集めた。もし名実共に球界ナンバーワン捕手となった阿部が、阪神に来ていたら巨人―阪神戦の歴史も大きく変わっていたのかもしれない。