身近な生き物たちの知られざる生態。大阪市立自然史博物館で「ネコと見つける都市の自然」展
感染症デング熱の都市公園での感染報告が続く中、都市の自然と人間のかかわり方を問い直す異色の特別展が大阪で開催され、話題を呼んでいる。都市の生態系は移ろいやすく、多様な生き物たちが少しずつ交代を繰り返しながら活動している。人間にとって好ましくない生き物も含めて、どのようにして向き合えばいいのか。意外な発見に満ちた都市の自然をのぞいてみよう。
ゴギブリスーツでゴギブリに変身
この特別展は大阪市立自然史博物館(大阪市東住吉区)で開催中の「ネコと見つける都市の自然―家の中から公園さんぽ―」展。関西、大阪に生息する生き物たちの生態を紹介している。アマチュアを含めた生物研究者たちの粘り強い調査活動の成果がベースになっているが、学術的な展示物ばかりが並んでいるわけではない。 会場の入り口付近に、四角いトンネル状の大きな箱が設置してある。ゴギブリスーツを装着してゴギブリに変身した子どもたちが、トンネルの中へ入り込む。 「足がくっついて歩けへん」と、かわいい悲鳴があがる。箱は巨大なゴキブリ捕獲器に見立てたもので、子どもたちにゴギブリの感覚を体験してもらおうと企画されたものだ。 隣接して懐かしい昭和風の住まいを再現。タンスの中などにひそんでいる大きな模型の昆虫を、子どもたちに見つけてもらう。昆虫にはイエバエ、ヒラタキクイムシなどとともに、デング熱を媒介する蚊として関心を呼んでいるヒトスジシマカも含まれている。
カラスが針金ハンガーを集める理由
都市に暮らす生き物たちの生態は意外性に富んでいる。会場内にほとんどがハンガーでできたカラスの巣が展示してある。しかも、巣の素材は針金ハンガーばかりで、プラスチック製のハンガーは使われていない。学芸員の和田岳さんが次のように説明する。 「都市部ではベランダなどにハンガーが豊富にありますので、カラスが拝借したハンガーをくわえて飛んでいる光景がよく見られます。針金ハンガーには弾力性があり、カラスの体重で枝のように変形しますので、巣作りに利用しやすいのでしょう。今後、針金ハンガーが姿を消した場合、プラスチックハンガーによる巣作りに切り替わるのか、これからの継続調査で分かるでしょう」 ツバメが民家の軒先に巣作りをするのは、天敵であるカラス除けに、人間を利用しているからだ。関西一円の駅で実施されたツバメの営巣調査で、興味深い傾向が確認された。 「自然が豊かなローカル線の駅での巣作りが少ない半面、都市郊外のベッドタウンを抱えた駅での巣作りが盛んだった。常時多くの乗降客でにぎわうとともに、周囲には適度な自然が残っている環境を、ツバメは好むようです」(和田学芸員) まちのにぎわいと適度な自然のバランスを懸命に推し測るツバメたちの姿は、どこか人間の住宅選びと似通っているのではないか。 大阪市内では植樹による緑化事業が一定の効果をあげ、メジロ、コゲラ、シジュウカラなど林に生息する小鳥たちが、都市公園や市街地に進出。エサとなる小鳥を追って、ハヤブサ、オオタカ、チョウゲンボウなどの猛きん類も姿を見せ始めている。 半面、緑化が植樹に偏りがちなため、ヒバリなど草地に生息する鳥たちには、緑化があまりプラスになっていないと考えられる。