続々と明らかになる睡眠と学習の密接な関係、寝ている間に勝手にレベルアップする現象も
「睡眠学習」ではなく「記憶固定(memory consolidation)」、単語の記憶などの他に自転車の乗り方や楽器の演奏でも発揮される
睡眠中には休養だけではなく、活動中にダメージを受けた細胞の修復、代謝や血液循環の安定化などさまざまな心身機能の調整が行われている。特に睡眠と脳機能の関係についての興味深い知見が積み重ねられている。これまでも睡眠が気分を安定させたり脳内の老廃物の排出を促したりするなど精神的健康を保つのに一役買っていることを紹介してきた。そして過去10年以上にわたり脳科学の注目を大いに集めてきたのが睡眠による記憶の固定(memory consolidation)である。 【動画】本当に眠りながら食べまくる女性たち、謎の病 記憶固定とは学習内容を長く記憶に留める神経機能を指し、学習後の睡眠中に固定作業が進むことが明らかになっている。例えば、無関係な単語の組み合わせや数字の列を記憶する課題に取り組んだ後にいったん眠ってから試験を受けた方が、同じ時間覚醒していたときよりも成績が良い(多く想起できる)などの現象はその一例である。 睡眠による記憶固定は、数字や単語、生活エピソードのような「言葉で説明できる記憶(宣言的記憶)」だけではなく、自転車の乗り方や楽器の演奏(指使い)など「体で覚える記憶(手続き記憶)」でも発揮される。 例えば、ピアノの指使いを模して左手の指でキーボードの複数のキーを指定された順序でタップする訓練を行うと、徐々に速く正確にタップできるようになり、一定時間中(30秒間など)に押せるキーの数は徐々に増加する。一日の中で訓練を続けてもある程度向上すると頭打ちになるが、一晩眠った翌日に訓練を再開すると前日の最終到達レベルの延長上ではなく、一段階飛躍してタッピング技術が向上する現象がみられる。これも睡眠による手続き記憶の固定によるものと考えられている。 レム睡眠、ノンレム睡眠などいずれの睡眠段階が記憶固定に貢献しているのかについても多数の研究が行われている。睡眠開始直後の徐波睡眠(深いノンレム睡眠)や睡眠後半のレム睡眠、浅いノンレム睡眠(睡眠段階2)などが記憶固定に貢献していることが明らかになっているが、宣言的記憶や手続き記憶など記憶の種類によって関わる睡眠段階や量も異なるとの報告もある。 また興味深いことに、シューティングゲームのように動く標的を追跡する技能の習得にはそれに関連する大脳皮質の領域(この場合は頭頂葉)に出現する徐波睡眠量と密接に関連していることも示されている。つまり脳全体の睡眠ではなく、特定の脳領域の睡眠(局所睡眠 local sleep)がその部位が司る技能(手続き記憶)の向上に貢献しているというのである。