続々と明らかになる睡眠と学習の密接な関係、寝ている間に勝手にレベルアップする現象も
睡眠障害で複数の認知機能にも悪影響が
このような睡眠構造の異常と記憶障害との関係については、統合失調症のほかにも双極症(双極性障害、躁うつ病)、うつ病、神経発達症(発達障害)などでも確認されており、それら多数の研究のメタ解析によれば精神疾患患者では健常者で認められる睡眠による記憶固定が乏しいと結論づけられている。 睡眠障害による脳機能への影響は記憶に留まらず、認知機能全般にわたる。認知機能とは、文字通り周囲の状況を認知(認識)して対応するために必要な能力のことで、物事に注意を向け、必要な情報を選別して取り込み、記憶し、問題に対処するための計画を立て、実際に作業を実行するなどの要素に分かれる。 認知機能は単一の機能ではなく、幾つかの領域(domain ドメイン)に分けられ、それぞれ担当する脳領域も異なる。機能ドメインの分類法はさまざまだが、精神科では今回紹介した言語や作業の記憶(ワーキングメモリ)のほか、処理速度、注意力、流暢性、遂行機能などに分けて評価するのが一般的だ。 いずれの要素が欠けても就業や生活で困りごとが生じる。例えば、夕飯の材料を買いにスーパーに出かけても、食材リストを思い出せない、おつりの計算が苦手(言語・作業記憶)、通路順にテキパキと必要な物をカートに入れることができない(処理速度)、ボンヤリして必要な調味料を買い忘れる(注意力)、商品棚で見つからないものを店員に尋ねようとしても上手く表現できず、言葉がスラスラと出てこない(流暢性)、夕飯を作ろうとしても献立が頭に浮かばず、手際が悪くて時間がかかる(遂行機能)など、認知機能ドメインの障害によって種々の場面で困難が生じる。 精神疾患では回復期であっても認知機能の障害が残存していることが少なくない。認知機能障害が目立つ精神疾患の代表格は統合失調症であるが、双極症、うつ病など多くの疾患で報告されている。 睡眠障害は記憶以外にも複数の認知機能ドメインに悪影響を及ぼすことで患者の生活機能を低下させていることを示す研究が増えている。また、精神疾患患者の不眠や睡眠リズムを改善する生活指導を行ったところ、睡眠の質の改善と並行して言語記憶の向上が認められたとの報告もある。 確かに診療をしていても、ぐっすり眠り、健やかに目覚めることができるようになると活発な日常生活を送れるようになる患者が多い。そこには単に疲労回復だけではなく認知機能の改善も貢献しているのだろう。
(三島和夫 睡眠専門医)