「胎動が少ない」不安を抱く中、緊急帝王切開をすると…医師「先天性ミオパチーだと思う」息子の病を知ったあと、前を向けた理由とは
「先天性ミオパチー」という難病
富士くんは「先天性ミオパチー」という難病を患っていました。ゆりこさんは、病気を知ったときのことについてこう話します。 「生まれたその日に夫を通し、主治医の知見で『先天性ミオパチーだと思う』とは聞かされていました。そう言われたときは不安でしょうがなかったです。この先どうなるのか、どうやって成長していくのか、私たちで育てられるのか、寿命はどのくらいなのか…など心配が尽きませんでした。ですが事前に『先天性ミオパチーだと思う』と聞かされていたため、確定診断を受けたときはそんなに驚きはありませんでした」 現在、富士くんは2歳。 現在の症状は、筋肉の中でも体幹が弱い疾患のため、2歳になった今でも首は座っておらず、座位をとることも歩くこともできません。また腕や脚は動かせますが、基本的に寝たきりなため、ずっと同じ姿勢にならないように体位交換が必要だったり、座るのに「座位保持椅子」という身体を支えながら座位がとれる椅子に座ったりする必要があります。 そして24時間人工呼吸器装着、経鼻経腸栄養(EDチューブ)、持続吸引、吸引、ネブライザーなどの医療的ケアも必要です。 ※「先天性ミオパチー」…先天性ミオパチーは、骨格筋の先天的な構造異常により、新生児期ないし乳児期から筋力、筋緊張低下を示し、また筋症状以外にも呼吸障害、心合併症、関節拘縮、側弯、発育・発達の遅れ等を認める疾患群である。
乗り越えてきたこと
富士くんが退院し、家で過ごすようになったとき最初にゆりこさんが大変だと思ったのは外出でした。 「とにかく荷物が多いんです」といいます。 子どもの生活用品を持ち歩くための「マザーズバッグ」が必要ですが、富士くんの場合はそれにプラスして人工呼吸器や持続吸引機、医療的ケアに必要な道具(吸引機やサチュレーションモニター、緊急時グッズなど)が必要なのです。 「今は慣れましたが、これでは出かけるのが大変だと思いました」とゆりこさんは話していました。 さらに大変だったのは、保育園を探すことでした。 「健常児の子どもの保活は、保育園に見学に行き資料を提出する流れが一般的だと思いますが、富士の場合は、まず通える距離にある医療的ケア児を受け入れている保育園を探すところから始まります。役所の支援課で一覧表はもらえるのですが、すべてが通える距離にあるわけではないので、自分たちでピックアップしなければいけませんでした」 実際通える範囲にある保育園はたったの3つで、すべての保育園に見学に行ったといいます。そして、富士くんが現在通っている保育園には、合計4回足を運んだご主人とゆりこさん。 「見学や面談をするときに使えるよう、夫が富士のサポートブックを作成し、医療的ケアや緊急時の対応を保育園側に理解してもらえるように工夫をしました」 これだけの大変なことをどう乗り越えていたのかについて、ゆりこさんからは「やるしかない」という言葉が返ってきました。 「外出をしなければ荷物が多くて大変な思いをする必要もありませんし、保育園に通わなければ大変な保活をする必要もありません。でも私と夫は家にいるだけではなくて、息子に外の世界を知ってほしいと思っています。私もはじめは外出するのが大変だし怖くて心配でしたが、夫が腕をひっぱってくれたおかげで、今では楽しく外出することができています。また保育園も、いろいろな活動をしてお友達と関わる富士の姿を見て、保育園に入れてよかったなと思っています。」 ※医療的ケア児…医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。