トランプに騙されるな:ダドリーNY連銀前総裁の警鐘
金融市場はトランプ関税が経済に与える影響を過小評価していないか
金融市場も、トランプ関税が経済に与える影響を過小評価しているのではないか。ダドリー氏も指摘している点であるが、トランプ氏が再選した場合に実施する追加関税がもたらす経済への打撃は、トランプ前政権下での追加関税とは規模が全く違うのである。前回の追加関税が米中経済や世界経済に深刻な打撃を与えなかったからといっても、次回も同様と考えるのは短絡的過ぎる。 重要なのは、今回トランプ氏が掲げているのはすべての輸入品に一律に追加関税を課すというものであり、トランプ前政権下での一部の輸入品への追加関税とは全く異なる点を理解する必要がある。トランプ氏は、全輸入品に一律20%、中国からの輸入品には最大60%の関税を課すとしている。 タックス・ファウンデーションは、2025年末までに平均関税率が8倍に上昇する可能性があると推定している。ダドリー氏は、全面的な関税引き上げとなれば、それはインフレを招き、成長を阻害することになる。また、米国が競争優位性を欠く分野に生産がシフトすることで、生産性は低下を余儀なくされる。輸入原材料費の高騰により、米国の生産者は代替品を見つけるのに奔走せざるを得なくなり、サプライチェーンに負担がかかるため、生産性はさらに低下すると中長期的にも米国の生産性上昇率、成長率を押し下げる、としている。また、外国からの報復関税も避けられなくなり、保護主義が世界に蔓延して、世界経済の大きな打撃となるのではないか。 ダドリー氏は、「もしかするとトランプ氏は、関税を引き上げるのが賢策だと本気で信じているのかもしれない。いずれにせよ、トランプ氏は自分が話していることを理解していないという点を、有権者は認識しておく必要がある」との厳しいコメントでコラムを締めている。 (参考資料) "Voters Believe in Trump's Tariffs. They’re So Wrong: Bill Dudley(だまされるな、トランプ関税は生活を苦しくする-ダドリー)", Bloomberg, October 22, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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