電車運転士は「おっしょはん」とともに 強い絆の師弟関係 昭和100年だヨ!全品集合 阪急電車編
「スクリーンに映し出されるさまざまな状況にどう対応すればいいかを学んでいきます」と説明してくれたのが山本誠治第一教習係長(56)だ。
さまざまな状況とは、運転士では大雪や大雨などの悪天候や土砂崩れなどの自然災害、踏切での自動車の立ち往生など。その数は車掌で25項目。運転士で75項目もある。もし前方で起こった土砂崩れに気づかず、運転士のブレーキが遅れて電車が突っ込んでしまうと、衝撃音が鳴り、スクリーンには運転席の窓ガラスが割れたヒビが一面に映しだされる。「見習生」も教官も真剣そのものだ。
「田所さんも運転してみますか?」と勧められ、白い手袋をして運転席に座った。電車を動かす「ハンドル」を握る。上下に動き、真ん中がニュートラル。そこから1段階ずつ手前に引き下げるとスピードが増し、奥に動かすと徐々にブレーキがかかる。
ハンドルにはもうひとつ握り込むレバーがついており、教官は「これを握って、離さないでください」という。なぜ?と聞くと「離すと急ブレーキがかかります」という。
「運転中万が一、運転士が意識を失っても、ハンドルを握っている手が緩めば、急ブレーキがかかって電車は止まるでしょ」。そこまで予測しているとは、恐れ入りました。
■「駅長」になるには
試験を受けるのは「運転士」までで、そこからの「助役」「駅長」は上からの「任命制」という。勤務態度や監督職としての資質などが考慮される。「助役」になれば次は「首席助役」「駅長」そして「統括駅長」となる。稲野さんは統括駅長を7年も務めた=写真。
「運転士の免許証をもらったときもうれしかった。もちろん駅長になったときも。帽子に金の線が入るんですから」と稲野さんは懐かしそうに笑った。(田所龍一、写真も)