電車運転士は「おっしょはん」とともに 強い絆の師弟関係 昭和100年だヨ!全品集合 阪急電車編
こうして約1カ月半の講習を終えると学科試験と実技試験。合格すれば駅に配属され、「見習生(けんしゅうせい)」として「指導員」のマンツーマンによる実地訓練を受ける。実はこの指導員のことを阪急では「おっしょはん」と呼んでいる。
「正確にいえば〝お師匠さん〟。それを関西弁で〝おっしょはん〟というんです。ウチ(阪急)だけの風習と聞いてます」と稲野さん。「師匠」との関係は一生続き、仕事での相談だけでなく人生の悩み事を打ち明けるような間柄になるという。実はこのおっしょはんは1人ではない。運転士になるまでに3人のおっしょはんとの出会いがあるのだ。
「おっしょはんに付いて約1カ月学べば駅員として独り立ちです」
--稲野さん、いつ運転士になれるんですか
「まだまだです。2年間駅員を務めると車掌になるための受験資格が得られる」
--いやいや、車掌やなく、運転士ですよ
「阪急ではまず車掌にならないと運転士にはなれないんですよ」
■難関の国家試験
なんと! 稲野さんの解説によると「車掌」になるために今度は「教習所」での訓練(約1カ月)→試験(一般教養の他に英語、数学、専門知識など)→実務訓練。ここで2人目のおっしょはんが登場→実務試験→晴れて車掌さん。さらに3年間の車掌勤務を経てようやく「運転士」の受験資格を得られるという。そして再び「教習所」(4カ月)→実技訓練(4カ月)。このとき3人目のおっしょはんにまた厳しく指導されるのである。
ちなみに電車の運転席に2人いるのを見かけることがあるが、運転士の横に座っていれば、それは訓練中で「おっしょはん」と「見習生」。立っていれば運転士をチェックする「助役さん」だという。
そして最終関門となる運転士の「国家試験」を受ける。競争率は10~20倍といわれている。入社から5年、勉強と訓練を続けてそれでもなれない人もいる。まさしくはるかなる道のりなのである。
■あらゆる状況を想定
京都線正雀駅のそばにある「教習所」を訪ねた。実技室には実物の3分の1の大きさの車両が置かれ、ドアの横には車掌用、前方には運転士用のスクリーン。ここで「車掌」や「運転士」になる訓練を受ける。