新型コロナ禍と東日本大震災を知る浦和レッズ武藤が語る「今世の中で絶対に必要ではない職業のサッカーをする意義」
レッズでは自宅待機中の選手たちへ、首脳陣から筋トレのメニューが渡されている。起床後に最大で30分ほどの読書の時間を新たに設けたと明かした武藤は、いま現在はSHOWROOM株式会社の前田裕二代表取締役社長によるビジネス書『人生の勝算』(幻冬舎刊)を熟読している。 「家族との時間が増えたなかで、もうすぐ3歳になる娘とずっと一緒に遊んでいて、少しずつパパっ子になってきたかなと感じています。外に人が少なくなった時間帯を選んでジョギングをするとか、筋トレを含めて最低限の部分というか、アスリートとしての維持を目指しているところです」 ちょっぴり照れくさそうな笑顔も交えながら近況を語った武藤は、9年前とは異なり、ボールを蹴ることすらできない日々が続くなかで、プロサッカー選手の存在意義にも思いをめぐらせている。 「サッカーがなくなったら(大勢の人々が)生活ができないのか、いま現在の世の中でサッカーが絶対に必要な職業なのか、と言われればそうではないと思っています。もちろんサッカーがしたいですけど無理な状況ですし、生きていく上でもっと大事なことがある。いまはみなさんの健康が第一なので」 背中を見せて左手を突き上げる写真を、ハッシュタグ<#医療従事者は私たちのヒーロー>とともにSNSに投稿するムーブメント(@thanksmedicalworkers)に賛同している武藤は、最前線で目に見えない敵と戦っている医療従事者へ感謝の思いを捧げながら、未来へ向けてこんな言葉を紡いだ。 「安心してサッカーが見られる状況になったときに、辛い思いをしてきた大勢の人たちのストレスを解消させるプレーであるとか、希望や勇気を与えることでまた頑張っていこう、と思ってもらえるようなプレーをするところにスポーツの意味が、そして僕たちの価値がある。なので、いまやるべきことは健康に気をつけながら、そのときのために準備をすることだと思っています」 21日からはすべての選手を『Zoom』でつないで、合同のフィジカルトレーニングがスタートする。一人だけの練習ではどうしても限界があるだけに、チームメイトたちの顔を見ながら汗を流せる状況を「いい空気というものを、作れるのかなと思っています」と武藤は声を弾ませる。 「気持ちの入った熱いプレーが、見てくれる方々の心に一番届くはずなので。泥臭くても全力で戦う姿勢を見せたいし、そういうところから何かを感じてもらえるんじゃないかと思っています」 レッズ加入後の2年間で25ゴールをあげたストライカーが、昨シーズンはけがもあってわずか1ゴールに終わった。捲土重来を期していた矢先に、日本全体が未曾有の事態に見舞われた今シーズン。図らずもルーキーイヤーを思い出した武藤の視線は、個人的な復活を介してレッズを内側から鼓舞し、9年前のフロンターレ戦を超越する戦いを次々と演じていく、ごく近い未来へ向けられている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)