「この経験を積むことが大事だった」岸井ゆきのが痛みと向き合った3週間 映画『若き見知らぬ者たち』インタビュー
映画人としてこれから実現させたいこと
──これだけ重い役が続いている、直近では大作舞台である松尾スズキ作・演出の『ふくすけ2024─歌舞伎町黙示録』において、ふくすけ役を演じられていて、それこそ肉体と精神をなるべくニュートラルに保ってないとご自身が崩れそうになるような瞬間があるんじゃないかと想像してしまうんですね。 そうですね。日向もふくすけも生半可な気持ちじゃできないので、とにかく全力でやるしかない。ふと不安になって「もうダメかも」って思う瞬間はたしかに以前より多くなりました。そうなる瞬間って今まであまりなかったんですが、ずっと張り詰めている状態が長いから。 ──どのようにケアしてるんですか? う~ん……でも、やっぱり舞台は時間になったら必ず幕が開くので。自分がどんな状態でも必ずやり遂げなきゃいけないって心をドライブさせてますね。ケアの仕方か……そのやり方がわからないんですよね。今回も内山組に参加しているなかで自分の心がすごく削れていくのがわかったし、今は日向でいられるからいいけど、この現場が終わったあとが心配だなと思ってました。自分を取り戻すまでに時間がかかるだろうなと想像はついていて。それで、撮了してから一人旅でポルトガルに行ったりしたんですけど。でも、このやり方ではちょっと回復できなくなってるんだなと、正直に言うと思いました。新しい方法を探さなきゃって。 ──それが課題でもある? 見つけないとマズいなと思いましたね。ポルトガルのリスボンに行っても、教会がたくさんあって、泣きながらマリア様の足元を撫でる人を目の当たりすると「みんな許されたいと思ってるんだな」とか、いろんなことを考えてしまって。もっとパリピなところに行けばいいんですかね? ──ハワイですかね(笑)。 ハワイはいいかもしれないですね! ──本作は日本、フランス、韓国、香港合作という、世界に向けて発信する前提で製作された映画でもありますが、岸井さんは『ケイコ』で数々の映画賞を受賞し、ベルリン国際映画祭をはじめ海外でも称賛を受けました。ここから映画人として、俳優部の一人として、どういったことを実現させたいと思っていますか? 俳優部としては、私はやっぱり創作することが好きなので。今作も『ケイコ』もそうですが、その役と映画のことだけを考えて、役を全うしたいという気持ちは今まで通りあります。あとはやっぱり海外の映画祭に行くことで今の日本映画を世界に届けたい。届けたいのですが、でも、それを変に狙うことはしたくないと思ってるんです。「この映画祭はこういう作風が好まれる」とか、そういうことではなく、日本には本当にいい映画作品があると誇れる仕事を続けたいから。真摯に物語と向き合った作品が、世界のマーケットに出ていく。そのことが願望であり、目標ですね。 ──もっと個人的な、イチ映画ファンとしての願望はどうですか? もっと個人なことで言えば、やっぱり映画祭のレッドカーペットを歩きたいです。だって(M・ナイト・)シャマランとかに会えるんですよ!? ──あはははは! シャマランに会えたらうれしいですよね。あとは、岸井さんがずっと敬愛しているクリストファー・ノーランともいつか仕事したいですよね。 そりゃもう、ノーランとレッドカーペットを歩いてみたいですよ! ──ノーランに早く見つけてもらえるように(笑)。 見つけてください。ここにいます。 ──『ケイコ』は観てるんじゃないかと勝手に想像しますけどね。 観てほしいですよね。手紙書こうかな! 取材・文/三宅正一 編集/小島靖彦(Bezzy)