再挑戦実る H3ロケット2号機打ち上げ成功、宇宙開発利用の新エースに
H3はH2A、小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットを構成する。1、2号機は試験機としてJAXAが打ち上げたが、将来的にはH2Aと同様に三菱重工業に移管し、商業打ち上げ市場に投入する。 政府の宇宙基本計画工程表によると、H3は来年度に地球観測衛星「だいち4号」、防衛通信衛星、準天頂衛星の3回の打ち上げを計画。H2Aは来年度に情報収集衛星、温室効果ガス・水循環観測技術衛星をそれぞれ打ち上げ、退役する。
開発の目玉、1段エンジンは1号機から“成功”
1号機の失敗後、原因となった2段の電気系統に注目が集まってきたが、H3の開発をおさらいすると、最大の目玉は設計思想を転換した1段エンジン「LE9」だった。このLE9自体は、1号機でも正常に機能し“成功”している。2段エンジンに用いてきた日本独自の燃焼方式「エキスパンダーブリード」を1段に初採用したものだ。H2Aの1段エンジンの「2段燃焼」に比べ、燃費をわずかに犠牲にする代わりに、仕組みを簡素化した。 どちらの方式も、燃料の液体水素と液体酸素をポンプで加圧して燃焼室に送り、発生したガスをノズルから出すという基本は同じ。2段燃焼では水素をまず副燃焼室で燃やし、そのガスでポンプを動かした後、燃焼室に送り、つまり2段階で燃やす。燃料を無駄なく使い燃費は良いが、制御は極めて複雑だ。 一方、エキスパンダーブリードではまず、水素を燃焼室の熱で膨張(エキスパンド)させてポンプを動かす。副燃焼室がないので部品数が2割以上減り、コスト削減と信頼性向上が図れる。しかもトラブル時に爆発する心配が、極めて少ないという。ただ、ポンプを動かした水素は燃焼室に送らず、ノズルから出して(ブリード)捨ててしまう。こうして燃費を3%だけ犠牲にするのと引き換えに、制御は容易になる。
H3の開発は2014年にスタート。当初は20年度の打ち上げを目指したが、大詰めに近づいたと思われた20年5月の燃焼試験でLE9の燃焼室に多数の小さな穴が生じるなどし、また22年1月にはタービンに異常な振動が見つかったと発表し、延期を繰り返した。1段エンジンは地上の重力に打ち勝って機体を上昇させるため、2段とは桁違いの能力が必要だ。1号機は打ち上げとしては失敗したものの、LE9が見事に仕事をやり切ったことは本来、特筆に値することだった。 1号機の打ち上げを現地で取材した筆者は、打ち上げ失敗自体より、1段ではなく、開発要素が少ないはずの2段でつまずいたことが意外で、“狐につままれた”ような心境に陥ったのを覚えている。