【#佐藤優のシン世界地図探索63】"永世孤立国"日本は「永世中立国」スイスを越えられるのか?
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * 佐藤 最初に頭に入れておかないといけないのは、世の中と新聞や報道のズレです。日本の報道では、どう見てもおかしいことが争点になっています。それは、メディア全体がズレているからです。この連載で非常に重要なのは、入り口で"ノイズ"と"情報"を分けることです。 ――どう仕分けるべきなのでしょうか? 佐藤 まず「驚くべきこと」や「これ、おかしいよね?」ということに注意するべきです。たとえば、イラン大統領が墜落死した件は、フライトレコーダーやボイスレコーダーの記録が出る前に事故だと報道されました。これは「おかしいよね?」と感じるはずです。 それからこの件に関して、岸田首相の談話がかなり早い段階で発表されました。これは「驚くべきこと」です。マスコミのズレた報道の"ノイズ"と"情報"を分別することが重要なのです。 ――分かりました。あと、仁義の世界の決まりごとを、国際紛争に照らし合わせると分かりやすくなると思います。 佐藤 たとえば前出のイランのヘリ墜落事故。この件では、イスラエルがイラン大統領を殺害する動機は大いにあります。同時にイスラエルは、殺しを実行する能力も持っています。そして、最近の国際政治で要人暗殺はもうゲームに入っています。 しかし、仁義の世界では組長をやるのはご法度になっているように、国際政治では首脳まではやらない決まりになっています。若頭まではルール上は問題ないけど、組長はやりません。 ――イラン革命防衛隊司令官のスレイマンは若頭だから、米国は無人機で暗殺した。しかし、イラン大統領は組長だから殺してはいけないというルール。 佐藤 そういうことです。お互いに最初から組長のタマを取るような戦争になったら、非常に面倒な事態に発展します。しかも、国際社会には暴力団対策を担う警察はいません。 ――米国は「世界の警察」でしたが、もう辞めました。第四次中東戦争の頃は、超大国の米ソが暴対の役割をしていました。 佐藤 いまその警察がいない状況で、仁義なき戦いが始まったらどうなります? ――即、敵国のトップがいる首都に向けて、核ミサイルをぶち込み合う核戦争になります。 佐藤 いままさにそういう状況にあります。しかし、世界がそんな中、日本だけはなんだか一本独鈷(いっぽんどっこ・独立して組を運営している暴力団組織)みたいな状態です。米国の傘下でありながらも「カチコミに行け」とか言われないですからね。 だから、当事者にとっては深刻なものの、日本の国家や国民とは全く関係のないことで争いを行なっている、という状況なんです。 ――地球上で日本だけ、違う世界に生きているということですか?