「小さな自分を探しなさい」…専門医も誤診する「複雑性PTSD」の筆者がカウンセリングで「気づいたこと」
---------- 「複雑性PTSD」という精神疾患は持続的な虐待やDVなどのトラウマ体験を機に発症すると言われている。フラッシュバックや感情の調整が困難になるなどの症状が見られ、対人関係に支障をきたすこともあるという。私は複雑性PTSDの当事者だ。前回〈ひとりで暴言をまき散らし、時には虚無に…「複雑性PTSD」と診断された筆者が悩み続けた「自分とのつきあい方」〉は、ひとりで暴言を吐き散らし、眠れないと自宅前の車道に飛び出して死にたくなるなど、心の舵を握れなかった頃の状態をお伝えした。本稿では、受診したメンタルクリニックで、どんな診断をされ、“コントロールできない自分”を治療していくことになったのかを紹介したい。 ---------- 【写真】ひとりで暴言をまき散らし、時には虚無に…「複雑性PTSD」との付き合い方
自然に涙がこぼれた
10代の頃、私は過敏性腸症候群や不眠に悩まされ、精神科を受診。私は社会不安障害やうつ病と診断され、投薬治療を受けたことがある。だが、処方される薬がどんどん強くなっていく一方、心の状態が改善されているとは感じられなかった。 また、精神医から心が傷つく無神経な言葉を言われたこともあり、今回は精神科に思い切って違う治療法を試してみようと決心。昔、通っていた大学の教授が開院しているメンタルクリニックを訪れることにした。 そこでは投薬治療は行われておらず、カウンセリングがメイン。公認心理師のカウンセリングを1時間受け、心と向き合っていくという治療方針だった。 初診時は、問診票に書いた「眠れないと苦しくて死にたくなる」という言葉をカウンセラーが繰り返しただけで、私の目からは自然に涙がこぼれた。相手はただ、症状を確認しているだけ。そう分かっているのに、涙がこぼれたのだ。理由はわからない。
病名を告げられて
その後、カウンセラーから聞かれる質問にいくつか答えていき、心理検査を行った結果、「重度の複雑性PTSDである」と告げられ、驚いた。てっきり、今回も社会不安障害やうつ病であると診断されると思っていたからだ。 複雑性PTSDとは、一体どんな病気なのか。予想もしなかった病名を告げられ、私は混乱した。だが、当時に安堵もした。10代の頃から、ずっと心にあった“しこり”のようなものの正体が分かったような気がしたから。そのしこりと向き合おうとすると、私はいつも、暗い部屋の中に女の子が閉じ込められているようなイメージ図が頭に浮び、虚無モードになっていたのだ。 帰宅後、私はネット記事や書籍を読み漁り、複雑性PTSDについての知識を得ることにした。すると、そこには書かれていたのは、自分が体験してきた世界や苦しんでいる症状。「突然、過去の嫌な記憶を思い出すな」「嫌な夢をよく見る…」とはよく思っていたが、それがフラッシュバックと呼ばれる症状であったことを、その時初めて知った。 ドラマなどで見るフラッシュバックとは違う形であったから、私は自分がフラッシュバックに苦しんでいることに気づかなかったのだ。 私は、おかしいわけではなかった。ちゃんと病名がある病気だったんだ…。そう思えた時、涙が出た。 書籍にはトラウマ研究の最先端を行く米国でも、複雑性PTSDは誤診されることがあると綴られていた。複雑性PTSDという診断項目は2018年に公表された、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)で新たに採用されたばかりであり、診断には高度な専門性が必要。症状が多彩であるため、違う精神疾患であると誤診をさている・されてきた当事者も少なくないのだという。