なぜ中国人は高田馬場を目指すのか――「ガチ中華の街」になった高田馬場と歌舞伎町の二都物語
JR山手線の高田馬場駅周辺では、中国人向けに本場の味を提供する「ガチ中華」の店が目立って増えた。近隣の早稲田大学に中国人留学生が増えたほかにも、治安が良く住みやすいという高田馬場の地域性が影響しているという。海外から日本国内に移り住む人々の暮らしが、日本の風景を変えつつある。ノンフィクション作家の中原一歩氏は、近著『寄せ場のグルメ』(潮出版社)で高田馬場における中国料理店の歴史を繙いた。 *** 夕方5時。JR高田馬場の駅前は騒然となる。早稲田大学をはじめ、駅周辺にある日本語学校、専門学校の授業が終わり、そこに通う各国の留学生が、一気に駅の構内になだれ込むのだ。日本語は全く聞こえてこない。飛び交うのは韓国語、ベトナム語、タイ語、台湾語、そして、中国語。朝夕の2回、高田馬場駅の周囲が、日本語以外の言語の洪水に飲まれてゆく風景が、この街の日常となって久しい。 高田馬場名物の駅前の巨大看板。かつては、雑居ビルの屋上に日本人学生を意識した「学生ローン」や「予備校」の広告が並んだが、今では中文で書かれた中国人向けの看板ばかりが目立つ。その多くが「日本語塾」や難関大学を意識した「進学塾」「予備校」の看板だ。 また早稲田通りを歩くと、中国人が経営する食堂が目立つ。「麻辣湯」「火鍋串串」「祖房四楼」「蒙古肉餅」「蘇茶」……。中国語の店名からは、中国料理店であることはわかっても、どんな料理が出てくるか想像がつかない。全国の飲食店を網羅する食べログなどのグルメサイトに掲載されていない店も多い。 驚くのは雑居ビルの最上階。表通りには看板がないのに、連日、満員御礼の店もある。客のほとんどが中国人。料理は経営者の出身地の地域性が色濃く反映され、日本人に馴染みのある“町中華”とは別物だ。 駅周辺の表通りだけでも、中国人が経営するこうした食堂が50軒ほどあるという。裏通りや雑居ビルにも店舗はあるが数が多すぎて把握することは難しい。流動も激しく、半年で撤退する店もある。