住宅ローン金利の上昇でリスク高まるタワマンパワーカップルの代わりに登場した「パワーファミリー」の正体
住宅市場では、夫婦ともに高額所得のパワーカップルが注目されてきたが、少ない頭金で購入しているケースが多く、金利上昇で危うさが増している。今後、高額物件は売れなくなってしまうのか。住宅ジャーナリストの山下和之氏は「パワーカップルへの不安が高まる中で住宅業界が期待しているのは“パワーファミリー”。2億円クラスの物件をラクラク購入できるケースも多く、今後の不動産価格を支える可能性がある」という――。 【図表】ライフステージ別世帯総年収と購入価格(単位:万円) ■パワーカップルが住宅価格の高騰を下支え 住宅価格、とくに首都圏の新築マンションを中心とする価格の高騰が続いている。高くなり過ぎて、平均的な会社員では購入が簡単ではなくなっているため、住宅市場では夫婦共働きで世帯年収の高い、いわゆるパワーカップルの存在が注目されている。 リクルートのSUUMOリサーチセンターの調査によると、図表1にあるように首都圏で新築マンションを買った人全体の共働き率は58.6%だが、既婚世帯でみると75.3%、夫婦のみの世帯では89.8%に達している。新築マンションにおいては、夫婦のみのパワーカップルが主役になっているといっても過言ではない。 世帯総年収をみても、図表2にあるように契約者全体では1057万円なのが、共働き世帯では1126万円に増え、共働き世帯のうち世帯総年収が1000万円以上の世帯の平均は1397万円となっている。 購入価格も契約者全体が6033万円なのに対して、共働き世帯は6303万円で、世帯年収が1000万円以上の世帯では7147万円となっている。それ以上の億ションを購入するパワーカップル、2億ションを買うパワーカップルも少なくないといわれている。 パワーカップルが新築マンションの価格高騰を下支えしている観さえある。
■金利上昇で危うさが増すパワーカップル しかし、このパワーカップルの購入には、危うさが潜んでいる。先のSUUMOリサーチセンターの調査によると、新築マンション契約者全体の自己資金比率は21.7%に対して、共働き世帯では13.2%に低下し、なかでも共働きで世帯年収1000万円以上の世帯では9.9%と1割を切っているのだ。 これでは、夫婦どちらかがケガや病気になったり、リストラなどに遭ったりすれば、たちまち返済が困難になり、ローン破綻に陥るのではないだろうか。自己資金を2割以上入れていれば、物件価格が多少下がっても、売却すればローン残高を一掃することができる可能性が高いが、1割以下ではそうはいかないことが多い。売却可能価格以上のローン残高が残っているので、売るに売れず、といって一人の収入ではとても返済できる金額ではないので、返済の延滞から、最悪の場合、競売に付されてしまうことになる。 まして、2024年秋に至って、住宅ローン金利の本格的な上昇が始まっていて、リスクはますます高まっている。パワーカップルへの不安は尽きない。住宅ローンを融資する銀行のパワーカップルに対する審査も厳しくなるのではないだろうか。 ■注目度高まる“パワーファミリー”とは 住宅業界としては、いつまでもパワーカップルの存在に依存しているわけにはいかないわけだが、そんななかで注目されているのが、“パワーファミリー”だ。大手不動産会社の社長は“パワーファミリー”についてこんなふうに語っている。 「共働きではないが、優良企業の管理職などとして高い年収を得ており、若いうちに通勤に便利な場所でマンションを購入していて、そのマンションの資産価値が大幅に上昇している。それを売却して、一回り広いマンションに、よりグレードの高いマンションに買い替えが可能になっている。なかには、2度の買い替えを行う人や、子どもの成長などに合わせて、2台のクルマを停めることができるゆとりある戸建住宅への買い替えを行う人もいる」 手持ち物件の売却によって自己資金が豊富なので、パワーカップルのように自己資金が1割以下といったリスクはなく、自己資金割合が5割を超えることもあるので、金融機関は積極的に融資してくれる。不動産会社としても、審査にひっかかるリスクがないので、安心して買い替えを進めることができるわけだ。