なぜ突然、“電気足りない”連続コール?「エネルギー基本計画」の不可思議
政府の脱炭素計画で急登場、「電気が足らない!」連続コール
今回の一連のGX、脱炭素施策のために政府が示した基本データで、最も特徴的だったのが、以下の2つの図(図3、4)に代表される、「電気が足らない!」の強調であった。 両方のデータそのものにはうそはないが、グラフをよく見ると違和感もある。 1つ目の図は、世界のデータセンター、AI等による電力需要の増加を示している(図3)。しかし、あくまでも「データセンターとAI等」での需要が数年で倍増するかもしれないのであって、世界全体の需要がそうなるのではない。 世界全体の需要量はおよそ3万TWh(2023年)あるので、中位の増加分(青の点線)340TWh(800マイナス460)を計算するとプラス1%少しでしかない。さらに世界需要といっても、先進国は省エネや技術革新などで減少の傾向にあり、増加は中国や途上国に寄っている。 2つ目の図では、データセンターや半導体工場の新増設等による産業部門の電力需要の大幅増加を原因として全体の需要増を説明している(図4)。 ここで、縦軸を見てほしい。もともと、電力需要が2023年度以降減少するとしていた予測(グレーの点線)が一転して増加に転じることに変わっている。 基準は7600億kWhから始まり200億kWh単位の刻みである。前回と今回の予測の差は、2030年あたりでせいぜい1目盛りなので増加分は200億kWhとなる。7600億kWhより下のグラフが省略されているので、大きな変化に見えるが、計算すると2%強の上昇でしかない。 何のために、こんな“誤解”を生みがちなグラフを使っているのであろうか。需要増を大きく見せたい意図があるのかと勘繰る気持ちにもなる。
政府の電力不足キャンペーンの意図とは
実は、電力の需要予測に対しては、政府も見通しには大きな幅があるとコメントしている。たとえば、今年の電力広域的運営推進機関による「将来の電力需給シナリオに関する検討会」で発表されたデータセンターでの需要増の想定は、資料を出した日本総研、RITE、電中研などでそれぞれ大きな違いがある。 そのうち、旧一電(東京電力、関西電力などのいわゆる大きな電力会社)の研究機関である電中研(電力中央研究所)は、低位予測ではあるが、2050年の段階でデータセンターの増加分を加えても全体の需要増は1%程度と予測している。その理由は、技術革新が進むためである。実際に、これまでのインターネットの急拡大やデータセンターの急増に対しても、同様のことが起きている。 下の図は、IEAのデータであり、この10年間(2010年から2020年)で10倍程度から20倍近くまでインターネットやデータセンターのデータの取り扱いなどが増えている(図5)。しかし、一方、データセンターでのエネルギー消費はほぼ変わっていない。それほど半導体の省エネ化などの技術革新は素晴らしく、電中研の低位想定もそれを取り込んでいると考えられる。 現在の政府の“推し電源”には、GX推進戦略にあるように、いまだに原発の利用推進と世界で評判の悪い石炭火力発電のアンモニア混焼が堂々と残っている。原発は新設では必ずコスト高となることは常識であるし、アンモニアのグリーン化ではコスト検討さえほぼされていない。 電気が足らないのだから値段のことは後回し、とでもいうのが、これらの電力不足キャンペーンの意図なのであろうか。原発の再稼働や新設はとても順調に進むとも思えず、電力の需要が増えてしまうと再エネの割合の達成が遠のく(電力需要の分母が増えると、38%達成により多くの再エネ発電が必要になる)。説明の筋としてもあまりに的を射ていないと思うのだが……。 第7次エネルギー基本計画の議論は今後さらに活発になる。データを都合よく引っ張ってくるようなレベルではなく、再エネ主力電源化の本筋に立ち返ることが必要である。本当の意味で世界の脱炭素を主導することこそが、政府の求める日本経済の復興への道である。
執筆:日本再生可能エネルギー総合研究所 代表 北村 和也