大統領選を左右するアメリカ「労働組合の現在地」、組織率が低下するも、その影響力は侮れない
このようなことがあって、途上国の環境基準や労働基準を引き上げたいという環境団体や人権団体の利害と労働組合の利害が一致したのです。 ――トランプは環境保護団体が石炭の火力発電に反対していることに対して、もっと石炭を掘れ「ドリルドリルドリル」ということで、石炭産業で働く労働者を味方につけたという報道がありますが、実際のところはどうなのでしょうか? 松井氏 国内の環境問題については、潜在的に労働組合と環境保護団体との対立関係はあります。石炭産業など化石燃料を扱う産業もそうですが、CO₂を排出する産業をなくすことは、そこで働く労働者の仕事を奪うことになります。トランプは、そこをついて、環境保護団体と労働者を離反させようとしています。
それは一定程度、労働者に浸透しましたが、これによって労働組合が分断されたかというと、そんなことはありません。私の知る限り主要な労働組合がトランプの支持に回ったということは聞いていません。 広い目で見れば、トランプが労働者の味方かといえば、違うということを労働組合の指導者は分かっています。それは今までの経緯やトランプ政権のしたことをみれば、明らかなのです。 労働組合側もグリーンエネルギーやEV自動車の生産で新たな産業を生み出すことができれば、そこで労働者の仕事も増えることにつながるとしています。
■現代の労働組合である「ソーシャル・ユニオニズム」 ――アメリカの労働組合は、以前の日本の総評系や同盟系みたいに、労働組合の中で左派や右派というのは、あるのでしょうか? 松井氏 アメリカの労働組合は分権的なので、大きく2つのグループに分かれているというよりは、たくさんの組合が散らばっている状況です。そのため、左派や右派で固まっているということはありません。 ただし、19世紀末から20世紀前半にかけて、アメリカの労働運動でも路線対立はありました。それは、使用者との関係や交渉にフォーカスし、そこでの労働者の利益を追求したビジネス・ユニオニズムと、職場を超えたより幅広い社会的目標の推進まで視野に置いた左派的なソーシャル・ユニオニズムです。