「世界の山ちゃん」タイでも好調 フランチャイズ形式、現地のニーズくみ取る
■何本でもいける
「く」の字形に折れた手羽先のから揚げは、スパイシーな香りが食欲をそそる。かぶり付くとコショウのきいたピリ辛さが後を引き、すぐに次に手が伸びる。国内に計68店を構える「世界の山ちゃん」は、名古屋名物の手羽先を全国に知らしめた存在だ。 看板メニュー「幻の手羽先」は、来店客のほぼ全員が注文する。常連の一人が「何本でもいける。気づいたら幻のように皿から消えとる」と言ったことからその名がついた。 名古屋・栄の本店で店長を務める二村英樹さん(48)は、「手羽先を頼まないお客さんがいたら、注文漏れかと思って従業員に確認させる」と言い切るほどの人気ぶりだ。 原材料の鶏肉は小ぶりなタイ産を使う。サイズ感が酒のアテにちょうど良いという。辛さと風味が際立つ特製コショウの作り方は企業秘密で、社内でも誰が知っているのか詳しくは共有されていない。
■大当たり
運営する「エスワイフード」(名古屋市中区)は1981年の創業だ。最初は焼き鳥が中心の店で、手羽先もメニューにあったが、元祖と名高い「風来坊」などに対して後発組だった。 創業者の山本重雄さん(故人)は後に読売新聞のインタビューに対し、「当時は一人で店を切り盛りしていて、他店のように味付けに手間をかけられなかった。時間短縮でタレを塗った手羽先に塩コショウと調味料を合わせてまぶしたら、ピリ辛の味が大当たりした」と明かしている。 2000年代に入ると、なごやめしへの注目度が全国的に高まり、山ちゃんも03年に関東進出した。国内にしかないのに「世界」をうたう個性的な店名と、羽が生えた重雄さんを模した奇抜なイラストの看板が首都圏でも関心を集め、人気店の仲間入りを果たした。
■現地ニーズ捉え
14年4月には香港に海外1号店を出し、名実ともに「世界の山ちゃん」になった。現在、海外には台湾、香港、タイで計12店を出店しているが、特に勢いがあるのはこのうち10店を占めるタイだ。 タイでは、現地のオーナーによるフランチャイズ(FC)形式を取っており、タイ人のニーズを見極めた巧みな出店戦略が急成長を支えている。タイの好調を踏まえて、今後、進出を検討する北米や欧州もFCで展開する方針だ。 海外店では手羽先のレシピを日本とそろえる一方、他の料理の味付けを変えたり、独自のメニューを出したりして集客を図っている。台湾支社長の高井宏典さん(48)は「台湾店のスープは、名古屋人からすると味がしないレベルの薄さ」と笑う。