珍獣・希少動物が本格的な演奏!0歳からOKのコンサート「ズーラシアンブラス」がクラシックの入り口に
オカピが指揮をして、ライオンがトランペットを、ホッキョクグマがテューバを演奏する。「ズーラシアンブラス」は、奏者が希少動物に扮して演奏する金管五重奏団だ。0歳から入場できる親子向けのコンサート「音楽の絵本」などを、全国各地で年間150公演ほどを開催し、音楽の素晴らしさを知る糸口を提供する。運営する株式会社スーパーキッズ代表の大塚治之さんに、誕生のきっかけや子どもに音楽を楽しんでもらうための工夫などを聞いた。 【写真】トランペットのインドライオン(写真中央) ■クラシック音楽の“絵本”に 絵と文章で伝える絵本は、子どもにとって文学の入り口。「クラシック音楽における絵本の役割ができれば」と誕生したのが「音楽の絵本」だ。うさぎの弦楽四重奏「弦(つる)うさぎ」とともに、クラシックや童謡、アニメ音楽などを織り交ぜて披露する。公演によっては、キツネのサックス四重奏や、ネコのクラリネット四重奏が加わることも。現在、動物の種類は全部で40を超えるという。今年はスティールパンを演奏する真っ赤な鳥「スカーレット」が新たに仲間に加わった。 動物たちの顔は無表情で、一見すると怖くも見える。「これには、ちゃんと理由があってですね」と大塚さん。「コンサートでは楽しい曲もあれば、悲しい曲、おどろおどろしい曲も演奏します。動物の顔はお客さんの心情を投影するスクリーン。無表情にすることで、笑っているように見えたり、悲しんでいるように見えたりするんです」 1999年に弦うさぎがデビュー。当時、大塚さんは娘をクラシックコンサートに連れて行こうとしたが、未就学児が入れるコンサートが見つからなかった。「それなら自分で作ろう」と、うさぎの四姉妹による弦楽四重奏団を結成した。同年に、絶滅危惧種などを多く展示・飼育する「よこはま動物園ズーラシア」が開園。スーパーキッズが同園のイベントを手がけていたことから、1周年記念として、希少動物による金管五重奏団の結成を提案した。だがコスチュームなどの制作費や維持費がかなりかかるということで頓挫してしまう。それでもあきらめず、自分たちで制作・運営するという形で2000年にズーラシアンブラスがデビュー。 ■プロでも難しい被り物を被っての演奏 大塚さんは「デビューした当時は『着ぐるみ=子どもだまし』と思われて、営業に回っても批判の嵐でした」と振り返る。「被り物を被っているということは、ろくな演奏家がやっていない」とも言われた。そこで大塚さんが考えたのが、CDを毎年発売することだった。 「CDを出したいという音楽家は多い。毎年頑張ってアルバムを発売することで、いい音楽家が集まるんです。それを続けているうちに、いいプレイヤーが集まってきました。とはいえ一番重要なのは、素晴らしい音楽を残すということ。近年では音楽の教科書から童謡が消えつつあり、岡野貞一や中山晋平、山田耕筰といった素晴らしい作曲家の曲を残していきたいという社会的なテーマもあります」 現在では業界からの理解も得ることができ、日本を代表するようなプレイヤーも参加している。だがプロの奏者であっても、被り物を被って演奏するのは簡単ではないという。 「まず周りの音が聞こえにくいですし、楽譜も見えづらい。厳しい環境で演奏しなければいけません。でもお行儀のいいクラシックコンサートとは違い、親子向けだからとてもいい反応が返ってくるんですね。それがすごく快感で、厳しい環境での演奏ですが、楽しんで取り組んでもらえているのだと思います」 「音楽の絵本」のコンサート時間は約90分。子どもも最後まで楽しめるように、集中力に着目してプログラムを立てている。コンサートが始まってすぐは、緊張感があり、集中力も高い状態。そこで本格的なクラシック曲を3曲ほど演奏する。その後はおふざけを交えたメンバー紹介や、観客を引きつけるソロ曲、あえて飽きてもらう時間を作るなど綿密に作り込んでいる。最後は客席後ろから奏者を登場させることで、観客をいっきに盛り上げてコンサートを締めくくる。 「普通のコンサートでは、どの曲を演奏するかを考えるのですが、我々は『集中力を取り戻す時間』『リフレッシュする時間』など時間帯をセグメントして、そこに当てはまる曲を選んでいます。そうすると、お子さんも最後までもつんですよね」 ■親子が対等に楽しめるコンサート コンサート中に楽しんでほしいという思いももちろんあるが、一番期待することは、家に帰ってから良質な親子のコミュニケーションが生まれることだという。 「子ども向けではなく、親子向けとしているのは、親子が対等に楽しんでほしいからです。例えばヒーローショーを見たときに、心の底からショーを楽しめる大人はあまり多くはないと思うんです。うちのコンサートは『ウサギさんがこういう音を出していたね』というふうに、家に帰ってから親子の会話が弾むことをイメージしてコンサートを作っています」 同社のコンサートがきっかけで音楽を始める人もいる。ある女の子は、弦うさぎの演奏を見てバイオリンを習い始めた。女の子は母親に尋ねた。「私も頑張ったら耳が生える?」。母親は「生えるかもよ」と返した。 「その子は音大に進んで、一昨年“耳が生えた”。弦うさぎのお友達プレイヤーになったんです。その子が子どもの頃から演奏しているメンバーもいるので、みんな大喜びでした」 大塚さんは中学生の頃に音楽に興味を持ったが、幼少の頃に音楽の教育を受けていなかったことから「音楽家になるには、もう間に合わない」と感じたという。 「一流の音楽家を育てるには、3代かかると言われています。例えばベートーベンにしても、モーツァルトにしても、親が一流の音楽家。天才音楽家はその後に生まれてきます。ただ楽しむだけなら何歳からでもいいですが、なるべく早い段階で興味を持ってもらったほうが、日本の音楽家の裾野を広げることになりますので、結果としていい音楽家も出やすい状況になるのではないかと考えています」 「音楽の絵本」のほかに、童謡をアレンジした「シンフォニック童謡」を演奏する「サマー・ミュージック・フェスティバル」など、さまざまなテーマを設けたコンサートを開催している。「秋の芸術祭」では、動物たちがクラシックの王道を原曲のまま演奏。クラシックの本来のよさを伝えることで、「音楽の絵本」を卒業したあとも、一般的なオーケストラに興味を持ってもらうことが狙いだ。 ズーラシアンブラスは2025年にデビュー25周年を迎える。今後の展望について大塚さんは「毎年2回、台湾で公演を行っています。今後は、もう少し遠い、クラシック音楽の本場でも演奏会ができたらと思っています」とコメント。 2025年4月12日(土)には「所沢市民文化センターミューズ」で「ズーラシアンブラス誕生25周年祭」を開催する。フルオーケストラにサックス四重奏を加えた大編成で、新曲「どうぶつ祝典序曲」やチャイコフスキーの大序曲「1812年」などを披露する予定だ。コンセプトは「コンサートホールはテーマパークだ」。開演前には射的や輪投げなどを楽しめるほか、終演後には動物たちと写真を撮れるグリーティングも開催する。 「クラシックに興味があるけど、ちょっとハードルが高いと感じている方には、ぜひ我々のコンサートに足を運んでいただければと思います。大人ひとりで通ってくださる方もたくさんいます。堅苦しくないですし、リラックスした気分で楽しんでください」