映画『フェラーリ』は創始者エンツォの激動の運命に心動かされる!
世界に誇るブランドを築き上げる。そんな人物は映画にとって最高の素材で、過去にもいくつもの傑作が誕生してきた。傑作の条件のひとつが、監督と主演俳優の組み合わせだとしたら、この『フェラーリ』は理想型が実現したと言っていいだろう。 あの馬のロゴでおなじみのイタリアの自動車メーカー、〈フェラーリ〉は、1947年に設立されて以来、レーシングカーやスポーツカーを製造し、今なお人気を誇っている。クルマ好きには、あこがれのブランドだ。その創始者、エンツォ・フェラーリが本作の主人公。エンツォ自身がレーシングドライバーで、引退後に〈フェラーリ〉を設立する。この映画は、1957年、59歳だったエンツォの1年間にフォーカス。イタリア全土、1000マイル縦断の公道レース“ミッレミリア”に〈フェラーリ〉社がどのように挑んだのかが描かれる。カーデザイナーでもあったエンツォなので、要所にマニアックなこだわりを散りばめながら、業績不振で倒産の危機にも瀕していた〈フェラーリ〉社の舞台裏にも肉薄。さらに会社の共同設立者だった妻ラウラとの関係、愛する息子を亡くした心の傷み、別の女性とその息子との生活など、一人の男の激動の運命がドラマティックに迫る構成だ。 監督はマイケル・マン。ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した『ヒート』を筆頭に、『インサイダー』、『ALI アリ』など、何かに“苦闘する”男を撮らせたら、現在の映画界で最高の巨匠。今回もエンツォ・フェラーリの内面にぐいぐい引き込まれる。そしてエンツォ役を任されたのが、アダム・ドライバー。『ハウス・オブ・グッチ』では、ファッションブランド“GUCCI”の一族の長男役を演じ、イタリア男がこれほど似合うハリウッドスターはいないと、本作でも証明。現在40歳のドライバーが、59歳のエンツォを見事に体現し、妻ラウラ役、ペネロペ・クルスとは壮絶な演技合戦も繰り広げる。そしてもちろん、最大の見どころはレースシーン。イタリアの公道を、当時のデザインを再現したマシーンが走行する映像だけで心が躍る。スピードや迫力だけでなく、どこか“風格”も備えたカーアクションに、監督のセンスが凝縮された! 『フェラーリ』7月5日公開 製作・監督/マイケル・マン 原作/ブロック・イェーツ 脚本/トロイ・ケネディ・マーティン 出演/アダム・ドライバー、ベネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、サラ・ガドン、ジャック・オコンネル 配給/キノフィルムズ 2023年/アメリカ・イギリス・イタリア・サウジアラビア/上映時間130分
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito