官民連携で世界の小規模生産者を支援するプロジェクト発足 タンザニアのコーヒーで始動 IFAD・農水省・UCC・丸紅が協働
UCC上島珈琲の中平尚己農事調査室室長は「いたずらにインフラを提供するというのではなく、プロジェクト終了後も、生産者に負荷が過剰にかからず持続可能な生産ができるような農法を提供・推奨していくことを目的としている」と力を込める。 収量アップの主な方策は、苗木とシェードツリーの提供となる。 シェードツリーはタンザニアでも進む地球温暖化対策として導入を進めていく。コーヒーノキの密度改善や剪定などのノウハウも提供する。 生産量倍増のイメージについては「苗木を植えて3年後に収穫が始まるため、実際の成果としては3年後に生産量2倍、3倍というところが見通せる」と説明する。 当面は生産量を追求し、生産量が増えた段階で品質アップに取り組む。
基盤整備に向けた支援金の使用用途は主に以下の通り。 ――苗床(ナーサリー)の建築 ――種と苗木の購入 ――堆肥の購入 ――堆肥の集積場所やロジスティックスの構築 ――アフリカンベッド(乾燥場所)の構築 コーヒーノキの生産年数は25~30年。生産年数を経過したものを、種と苗木の両方で植え替えしていく。育苗のためのトレーニングも実施する。 堆肥は現地にある有機材料も活用してコスト削減を図る。 生産者との関わりについてはIFADに期待を寄せる。 IFADは、小規模生産者や小規模農村地域のみに投資を行う唯一の国際金融機関となり、各地のコミュニティと良好な関係を構築している。 「UCCも独自に産地や農家の方とのパイプを持つが、地域を面でコネクションを深めていくのはなかなか難しかったことから、今回のプロジェクトは非常に貴重」とみている。 丸紅は主に現地の資源調査や進捗管理を担う。加えて「現地の生産者に留まらず輸出業者とのコネクションが物凄く深いことから、我々(UCC)にとっても非常に大きな力になる」と期待する。 タンザニア政府も動き出す。 タンザニア連合共和国駐日特命全権大使のバラカ・ハラン・ルヴァンダ閣下は「タンザニア政府はコーヒーを戦略的作物に指定している。間接的に240万人がコーヒーのバリューチェーンに関わり雇用を創出し我が国のGDPに大きく貢献している。政府は様々な対策をとって環境に適した生産を実施しようとしている」と述べる。 対策の一例に、デジタル化による許認可申請の効率化・簡便化、手数料の引き下げ、投資家へのインセンティブの提供などを挙げる。 農水省はこれまでELPSイニシアティブの実施を目的に累計3.4億円をIFADに拠出。 農林水産大臣政務官の高橋光男氏は「ELPSを開始することでこれまでの貢献が新たな地平を開くことを期待している」とコメントする。 外務省国際協力局参事官の今西靖治氏は「タンザニアにおける持続可能な農業が出現することを期待するとともに、日本とタンザニアの関係が一層強化されることを望んでいる」と語る。 ELPSは農水省と企業との会話から生まれたアイデアという。 「人権の配慮や小規模生産者支援にいかに貢献しているかということが、モノの価値にも影響し、企業価値にもつながるためグローバルの商流ではもはや不可別、というのが企業の皆様との会話の中で得た認識」と振り返るのは農林水産省国際戦略グループ長の米田立子氏。 IFADはELPSの実施機関となる。 「企業のニーズとしては、生産現場の上流への関わりを深めるには現地コミュニティや地域の要人とのネットワークが必要となるがビジネスリスクを伴う。一方、途上国の産地のニーズとしては生産力と付加価値を向上させたい。この双方のニーズは呼応関係にあり、IFADが仲介することで満たすことができればウィンウィンの関係が築けると考えたのが、今回の立ち上げの元々の趣旨」と説明する。 IFADマーケット&バリューチェーンスペシャリストのリック・ヴァン・デル・カンプ氏は、ELPS立ち上げの経緯について「2023年の初めに、農水省と骨格づくりを行い、かなり早い段階でUCCと議論した。UCCの皆さんには大変関心を持っていただき、協力できることについて話し合った後、丸紅に入っていただいた」と述べる。