元巨人広報が見た清原和博の苦悩 「好きなチームに入ったのに、どれだけ窮屈さを感じていたか...」
【長嶋茂雄流のファンサービス】 ── 当時、香坂さんは「巨人はマスコミチームだから」とおっしゃっていました。 香坂 長嶋監督がおっしゃっていた言葉です。もちろん、僕もそう思っています。長嶋監督ほどメディアの対応をずっと考えていた方はいません。たとえば、春季キャンプの朝の球場入り。長嶋監督は、とんでもない数のファンが"入り待ち"している真ん中を笑顔で入っていきます。僕らは多くのファンが殺到してケガでもしないかとか心配するけど、監督は突然笑顔で入っていく。でもその時、同じく入り待ちしていた報道カメラマンの一団が、ちゃんといい写真が撮れる位置を歩いているかどうかしっかり計算していて、監督はしっかり「絵を撮らせた」たんです。サービスというより計算、戦略ですよね。 ── 当時はSNSのない時代。今のように球団が映像を撮り、発信するなど考えられない時代でした。 広報 ある日、接戦の末に負けた東京ドームでの試合がありました。ゲームセットのあと、監督はいつも報道陣が待つ試合後の囲み取材に向かうのですが、その日はなぜかすぐにベンチからグラウンドに出て、スタンドをぐるりと眺めつつ「おい、どうだ、どのくらいお客さん残ってくれてたかな」と少し微笑みながら呟いたんです。9回、あと一歩のところまで相手を追い詰めて、勝てなかったけど、ファンは満足して帰ってくれたかな......と、監督はそう考えていたんですね。でもその直後の記者の囲み取材では険しい顔をして、淡々と試合を振り返った。この切り替えの早さ、すごいと思いましたね。今ならハンディカメラで試合終了直後のベンチを撮影できる時代かもしれないが、カメラが回っていないから監督は呟いた訳で、負け試合でもファンの手応えを常に気にしている本当の監督の姿は、やはり簡単には見られないものです。 ── そんな長嶋さんご自身が「長嶋茂雄を演じるのも大変なんだ」と漏らしていたとか。 香坂 当時、監督担当の広報だった小俣(進)さんから聞きました。監督は多くの人たちが気にしている存在であり、ファンのことを常に考えています。エピソードはたくさんありますし、また語り尽くせない恩義というか、人生経験をさせていただいた方ですね。本のなかでも書きましたけど、人生の教科書のような方です。