「誰もが」輝く社会を創るスタートアップ「ヘラルボニー」の挑戦 知的障害のある“異彩作家”と新たな文化を創造
作家の数が増える中で、当初は文登さんが担っていた作家とのコミュニケーションを複数の社員で担う必要が出てきたため、作家ごとに担当者を決める社内体制を作った。 この仕組みにより、作品の価値を世に伝えたいという社員のモチベーションも上がったという。 「担当する社員が作家さんの一番のファン。社内のSNSの投稿は、社員の作家さんへの愛であふれています」。完成した商品はまず、作家のもとに届ける。初めて商品を作ったころから変わらない“暗黙のルール”だ。
■コロナ禍でも事業を拡大 地元の岩手県を皮切りに、工事現場の仮囲いや駅舎を異彩作家のアートで彩るプロジェクトやラッピング列車、ラッピングバスが話題となり、2021年には盛岡市の中心部に常設のギャラリーをオープンした。 JALやJR東海、資生堂など国内の名だたる企業との協業や全国各地の百貨店でのポップアップの開催により、福祉分野やスタートアップ界隈で注目される存在から一躍、広く知られるブランドへと成長を遂げた。
2024年には社員60人規模になり、国家公務員や外資系コンサル、広告代理店などさまざまな業界の第一線で活躍していた人材がヘラルボニーの理念に共感し加わり、事業を進めている。 一方で、今も最初の意思決定は双子2人で行うという。盛岡と東京をつなぎ、早朝5時15分からオンラインや電話で意見交換するのが日常だ。 ■「日本初」LVMHアワード受賞を機に世界へ 2024年1月には国内外で活動する障害のある作家を対象とした「ヘラルボニー・アート・プライズ」を創設。
アールブリュット(正規の芸術教育を受けていない表現者によるアート)の権威であるキュレーターのクリスチャン・バースト氏らを審査員に迎えた。 世界28カ国から924名の作家による1973作品の応募があり、未知なる異彩作家とヘラルボニーがつながる場として機能し始めている。 さらにクリスチャン・バースト氏との出会いが、海外展開への大きなきっかけになった。 「バースト氏から『なぜ日本だけで展開しているのか』と言ってもらったことで、ヘラルボニーの価値観や理念は、世界に通用するものだと確信しました」と文登さんは振り返る。