「意味のイノベーション」で次世代に愛でられる文化づくり:福武英明×岩本涼
ベネッセホールディングス取締役会長、福武財団理事長を務める福武英明。ベネッセ創業家である福武一族は、ベネッセアートサイト直島を起点に、瀬戸内国際芸術祭など、世界が注目する「アートによる地域づくり」の先駆者だ。TeaRoom代表取締役の岩本涼は、中川政七商店の社外取締役も務め、茶の湯・工芸・アートといった文化を、産業に架橋させる事業に幅広く取り組む。 世界を動かすカルチャープレナーたち 文化をいかにして継続させるか。世代を超える文化の条件とは何か。カルチャープレナー=「文化起業家」の先を行く、二人の経営者による文化対談。 福武英明(以下、福武):世代を超えて続く文化とは何か、と考えてみると、最近は「長く続いているものに、価値がある」と思っています。つまり、いいものが長く続くのではなくて、長く続いていること自体が人類にとって意味があり、価値があるんだろう、と。 岩本涼(以下、岩本):おっしゃる通りです。私も直近の茶会で、「愛でるから価値があるのか、価値があるから愛でるのか」という問いを設定しました。茶碗自体に価値があるのではなく、茶人が茶碗を非常に丁寧に扱っていると価値があるように感じる。大切に愛で続けるから、価値が生まれていくわけです。「あの偉人が、あの時代に、このように大切に扱った」という伝来で、後世の人間が価値を感じる理由です。 福武:なるほど。例えばマチュピチュも、あれほど高い山の上の遺跡が、ずっと丁寧に整備されて残っている。人類が躍起になって残そうとしてきたものには、人は時代を超えて、価値を感じるのかもしれません。 岩本:文化というものは、生まれた時代にではなく、後天的に「文化」と定義されるものだと思います。最終的に、何世代も先の人類に「ここに宿る思想には、価値がある」と認められた瞬間に、後世によって文化に昇格します。 福武:文化というと京都を思い浮かべる人も多いかと思います。確かに素晴らしい地域ですが、先人たちがつくり残してきた街をどう保存・保護するかという視点だけではなく、未来に対して文化と定義されるものを、今からつくっていけるはず。その姿勢で私たちも芸術活動をしています。 岩本:福武さんのように、今を起点に、未来の文化をつくっていこうとする方こそ、カルチャープレナーと呼ぶにふさわしいです。私も茶の湯という伝統文化を基盤としますが、決して過去に固定化された文化を守りたいのではなく、文化のなかに潜む有用な思想の社会実装に向けて、事業を行っています。 福武:岩本さんの茶道への向き合い方のように、時代ごとに解釈できる余地のあるものが、時代を超えて文化として残ると思います。クラシック音楽も、時代ごとの名指揮者たちが同じ楽譜の名曲をそれぞれに解釈、演奏してきた結果ですよね。こすりがいのあることが、ポイントな気がします。 岩本:その発想は、まさに「意味のイノベーション」。文脈を新しくして、解釈をし直し続けられるだけの普遍性をもつものだけが、文化になっていきます。「茶碗を右に2回まわす」のような点前重視の茶道ではなく、「目の前の客人をどれだけもてなせるか」を考え尽くす思想重視の茶道のほうが価値がある。思想のレイヤーで考えれば、解釈は無限に生まれますから。 福武:文化活動というのは、なくなって初めてその価値に気づく、健康のような面があります。本当は、文化・芸術は「社会のインフラ」。衣食住と同列で、人類に必要不可欠な要素のはずで、それを証明するような活動をしたいです。