緩和ケアと終末期ケアの違いは?専門医が教える病棟を選ぶ際のポイント
――では、終末期ケアはいつから始まるのでしょうか。 実は「終末期」には厳密な定義はないとされているのですが、医師などの医療関係者が死を予測できる時期が、概ねそれにあたります。がん患者さんであれば、食事を摂れないような衰弱に伴う症状が現れると概ね1~2カ月で亡くなることは医学的に知られています。この知識も一般の方にはあまり周知されていないと思いますが、このような時期には終末期として対応してゆくのが妥当だと思います。しかしご本人やご家族が気づくことはなかなか難しいものでもありますので、担当の医療者とよく相談してほしいですね。
緩和ケア病棟選びのコツは、家族や友人と面会できるかどうか
――具体的に緩和ケアの内容をお聞かせください。 緩和ケアは患者さんやご家族の苦痛を軽減し、QOLを向上させるアプローチが主な定義ですが、この複雑な苦痛である「全人的苦痛(トータルペイン)」は4つに分けられるとされています。 具体的には、疾患や治療によって生じる症状や副作用などの「身体的苦痛」、気持ちが落ち込む・眠れないなどの「精神的苦痛」、仕事の継続や経済的な問題などに関する「社会的苦痛」、自分の生まれてきた意味や生きる価値などが見出せない「スピリチュアルペイン(霊的な苦痛)」があり、それぞれに対応が異なります。 たとえば「精神的苦痛」の場合、うつや不眠に対し傾聴するだけではなく、薬も選択肢になります。ですが「スピリチュアルペイン」は、人生の意味や自身の存在価値に悩むような苦悩であり、薬では対応できません。はじめはその苦しみゆえに語ってくださらない患者さんも少なくない中で、少しずつお話をお聞きしながら支えを強めてゆく、という根気強いアプローチが原則になってきます。「社会的苦痛」も同様に粘り強くサポートをしてゆきますが、補助金などの制度が使える場合もありますので、行政などに相談する柔軟性も求められます。 痛みや息苦しさなどの「身体的苦痛」は、モルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド)を使って対応する場合もありますが、現在は薬そのものも薬の使い方も進歩しており、「麻薬を使ったら余命が短くなる」というようなことはありません。これも非常に多くの方が誤解されていますね。 これらの4つの苦しみは相互に影響し合います。たとえば、「スピリチュアルペイン」が強い患者さんでも、「身体的苦痛」を麻薬などで抑えることでかなりの方が安定した状態になります。このように、緩和ケアでは、総合的なアプローチが必要になります。