ベテラン看護師が語る…意識のない夫を「諦めきれなかった」妻がすがった延命治療と、最愛の人を「後悔なしで見送る」ために「必要なモノ」
看護師の武藤さんが出した結論
「茂雄さんの呼吸は停止し、かなり危険な状態でした。訪問医とケアマネは『次に呼吸が止まったら看取りに入るというコンセンサスは奥さんから取れている』と言っていましたが、その奥さんが命を諦めきれず、救急車を呼んで欲しいと私に訴えている状況でした。最愛の人を失うのはつらいことですし、土壇場で意見が変わることはよくあることです。 問題は、茂雄さんの死のタイミングを誰が決めるべきか――です。茂雄さん自身が決めるのが理想的ですが、意思疎通が出来ませんから今回のケースでは不可能です。本人が決められない以上、次に決定権があるのは茂雄さんの身内であり、介護のキーパーソンである奥さんとなります。 私はその奥さんの意見がたとえ『間違ったもの』だったとしても、訪問医やケアマネが『言っていることが違う』と、自宅での看取りを強行して、茂雄さんの死を決定するのは違うと感じました」 武藤さんが出した答えは、「救急車を呼ぶ」だった。
「お叱りを受けた」
「私自身の気持ちとしては『茂雄さんは十分に頑張ってきたので、このまま逝かせてあげてもいいのではないか』というのが本音でした。でもそれは私個人の考え方でしかない。奧さんが望む以上、私は救命措置を取りながら救急車を待ち、病院搬送されるところまで見届けてから現場を離れました」 後日、武藤さんは訪問医から「あれだけ指示したのに、なぜ看取りに入らなかったのか」と怒鳴られ、ケアマネにも「奥さんとは何度も話し合って救急車は呼ばないと決めていたのに、なぜ救急車を呼んだのか」と詰められたという。 搬送された病院からも「茂雄さんは自宅で看取るために在宅医療を選択したのに、なぜ戻ってきているんだ」と、3方向から「お叱りを受けた」そうだ。ただ…、 「どんな状況でもキーパーソンが命を望む以上、医療従者が患者の死を決めるべきではないというのが私の考えです。奧さんは、茂雄さんと意思疎通ができなくなったあともベッドサイドで話しかけ続け、『孫が就職するまではお父さん、頑張ってね』と励まし、孫が就職すれば『孫の仕事が安定するまでは生きてね』と願い、その後も『せめて桜が咲くまでは』『夏の花火大会までは』と、日頃から夫の命を諦めきれていませんでした。 そういった心の状態で最愛の人の体調が急変し、目の前に延命できる手段があるのだったら、やっぱり救急車を呼んでしまう。それは無理からぬことです。医療従事者との話し合いの中では、奧さんは自宅での看取りを受け入れていましたが、それは心の表層だけの話で、心の奥底まで潜り込んだ同意は得られていなかったのでしょう。皆さんの『お叱り』は甘んじて受けました」
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