進化史の常識覆す?中国新疆で発見、複雑な年輪構造持つ3.7億年前の樹木化石
シニカウリスの複雑な年輪模様
植物の長大な進化上、樹木はその登場時から現生の樹木と「同じ成長パターン」を手に入れていたのだろうか? それとも「まるで異なる何か斬新な、または原始的な方法」を持っていたのだろうか? 一連のシニカウリスの化石標本は、我々に初めてこうした問いかけにたいするヒントをもたらしている。 珪化木として化石化したシニカウリスの幹を、岩石など加工する特殊なのこぎりを使って薄くスライスし顕微鏡で観察すると、木の組織や細胞の跡が(なんと)きれいに残っている。 研究論文にほれぼれするようなシニカウリスの断面図の写真がみられる。しかし学術雑誌に属す著作権の関係上、残念ながらここに掲載することはできない。ただ以下二つのサイト(Science.orgとScience Daily)において、いくつかこのイメージを直接見ることができるようだ。初めて詳細が明らかにされた最古の木の断面図。まさしく一見の価値アリだ。 ―Science.org: “ The world’s first trees grew by splitting their guts”: ―Science Daily “Fossils from the world's oldest trees reveal complex anatomy never seen before”: こうした写真イメージと研究論文における細かな幹の成長パターンの様子を、前回紹介した「現生の木の断面図」と比較して、私なりにまとめてみたのが下の図だ。 ―こちらのサイトに年輪の解剖図と成長パターンの詳しい説明あり:
一見すると、シニカウリスの幹の断面は、どうもレンコンかスイカの輪切りのような印象を受ける(昼食時前にこの部分を書いているため、私のただの錯覚かもしれない)。しかし、進化上、両者は何のつながりもない。これは木の幹の断面図であり、野菜の輪切りではない。 シニカウリスの木の幹には、まずその中央部に大きな空洞のスペースがある。このような現生の樹木はまるで知られていない。竹の空洞な幹とも構造上、シニカウリスのものははっきり異なり、進化上、何の関わりもない。) 現生種に共通して見られる木独特のたくさんの線を描いたバームクーヘンのような模様 ── いわゆる「年輪」 ── も、シニカウリスにはみられない。その代わりにいくつも無規則に並んだ「黒い斑点状」の存在が目に付く。この斑点のようなものの一つ一つが、実は現生の樹木に見られる木部と師部の組織の集まりと解釈できるそうだ。 このシニカウリスは、なんと「たくさんの年輪の集まりを一つの幹の中にもっていた」といえるかもしれない。この数はざっと数えて20から30くらいになるようだ。 ちょっとした「小宇宙の趣をこの太古の不思議な樹木は宿していた」といえば、大げさだろか。 今回の研究チームの一人である古植物学者Berry博士は、ScienceDailyでのインタビューにおいて「こんなに複雑な幹の成長パターンは、(現生と化石種を含んだ)他のどのグループにおいても今まで知られていない」と述べている。 いやはや、なんとも。私の開いた口はふさがらない。阿蘇山のふもとで丸々と肥えた雪男に遭遇してもここまでは驚かない。シニカウリスは最も古い樹木の一つだ。デボン紀後期のはじめ頃 ── 今から約3億7000万年前 ── に現れたのだ。 一見、複雑なものからシンプルなモノへ。初期の樹木たちは地質時代を通し不思議な進化のプロセスをたどった可能性がある。 この進化上の流れは、ダーウィンによって提唱された進化論の基本コンセプトの一つ ── 例えば「種の多様性や複雑性は基本的に地質年代を通して序々にそして着実に螺旋(らせん)階段を登るように増していく」── と比べると、まるで正反対だ。 それではどうして最初期の樹木の一つであるシニカウリスは、複雑な構造の幹を、樹木進化の初期段階において、手に入れる必要があったのだろうか? 何か劇的な環境の変化のせいか、遺伝子における突然変異なのか? それとも両方が同時に起きたのだろうか? しかし具体的に何によるのか ── この興味深い問いかけに対する答えは、今のところ何も出されていないようだ。 また一つ生物の進化史における新たな興味深いミステリーが誕生したようだ。今後の更なる研究に期待したい。