「積水は騙されている」…実は地面師との取引中に警告文が届いていた!?利益に目がくらみ、決済を急いだ積水ハウスの「愚行」
4通の文書
〈積水は騙されている〉 そう記された内容証明郵便が5月10日、積水ハウス本社に届いた。差出人は海老澤佐妃子となっており、海喜館を連絡先としている。 相手は佐妃子のなりすましなので取引を中止せよ、という内容だ。いわゆる警告文のような体裁である。 さらに翌日、似たような内容証明郵便が送り付けられ、文書は合計4通におよんだ。 ところが積水ハウスでは、これを怪文書扱いし、スルーした。先のニセ佐妃子、羽毛田の代理人弁護士が作成した〈事実経過報告〉には、関係者が集まり、文書に関する対処を検討している様が記されている。 積水ハウス側の取引責任者は常務執行役の三谷和司だ。三谷たち積水ハウス側はとうぜんのごとく小山や羽毛田たちを呼び出した。 羽毛田の弁護士による〈事実経過報告〉は、〈平成29年5月23日(火)午後3時 事務所会議室〉の出来事として、次のように書く。 〈三谷常務から海老澤と名乗る人物に対し、「積水ハウスに宛て去る4月24日の売買契約を締結したこともないし、それに基づく所有権移転請求権仮登記を承諾したこともないという海老澤佐妃子の、記名かつ佐妃子という印鑑を押印した怪文書的な通知書が4通ほど来ているが」と言ってその4通の通知書の写を机に提示し、「これはあなたが出したものではないのですね」と問い質すと、海老澤を名乗る人物は「私はこのようなものを出したことはありません」と答えた〉 すでになりすましが判明したあとの〈報告〉だけに、三谷たちが呼び出したのは〈海老澤と名乗る人物〉としているが、当時は疑っている様子がまるでない。もとよりくだんの弁護士も、取引当時は佐妃子がニセモノだと気づかなかったという前提で〈報告〉を書いている。
前倒しされた決済
それにしても積水ハウス側の調査はあまりに杜撰で、甘い。改めて本人だと確認する書類のフォーマットまで事前に用意していたというから、疑う気がないのである。〈報告〉はこう続く。 〈三谷常務は「あなたが出したものではないのであれば、それが違うということを確約してもらう書面を持参しているので」と言って、確約書を提示し、「そこに住所、氏名を自署し、実印を押印し印鑑証明書を添付して欲しい」と申し入れた。海老澤を名乗る人物は、すぐに確約書に住所、氏名を自署し、実印を押印して、それが実印であることを裏付ける印鑑証明書と共に三谷常務に交付した〉 つまるところ積水ハウスでは、この調査をもって“警告書”を怪文書扱いしたのである。投書のあった5月といえば、すでに本物の海老澤佐妃子は末期の癌で、文書を記せる状態ではない。 従って差し出し人不詳の文書であるのは間違いないが、かといって積水ハウス側がそれを知っているはずもない。 つまるところ調べもせず、やり過ごしてしまったのである。おまけにそれどころか、売買の決済を予定より早めてしまう。 民事裁判の準備書面によれば、5月25日、積水ハウス常務の三谷の指示により、従来7月末としていた決済日を6月1日と大幅に繰り上げたとしている。まるで大急ぎで決済しなければならないかのような慌てぶりだ。 『〈積水ハウス地面師詐欺事件〉「引き返す最後のチャンスだった...」決済前日に積水ハウスが見逃した、地面師の“唯一のミス”とは』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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